英国ケア・サービス大臣が今後の介護施策についてスピーチ

連立政権のケア・サービス大臣Paul Burstow氏が
介護者支援チャリティ Carers UKのカンファレンスで
連立政権の今後の介護施策のアウトラインについて講演。
全文が、自由民主党のHPに掲載されている。



以下、概要。

英国中の介護者が、経済的困難や孤独を抱え、ストレスだらけで、うんざりし、疲れ果て、
それでも愛と献身を見せて介護を担っていることは承知している。

事態を打開するために、もっと努力は必要だが、
しかし、予算を増額することだけでは解決にならない。

依存状態を減らし、
介護者の福祉を支え、
柔軟な働き方のできる機会を介護者に提供するために、
以下の4点を柱として考えている。

① 個別ケア

まず最初に、国がすべての解答を持っていると考えるのは止めよう。
一人一人の介護は異なっていて、誰にも当てはまる解答というものはない。
決定権を国会や市会から個々人や家族の手に委譲しよう。

2013年までに、すべての要介護状態の人は地方自治体からダイレクト・ペイメントで
介護費用を受け取ることができるようになる。その費用の使い方は
それぞれの人や家族が自由に決めることができる。

② 介護市場の発展

ダイレクト・ペイメントで現金を受け取っても、
買うべき介護サービスがなければ意味がない。

例えば、自立支援で重要になってくる新たなテクノロジーが介護分野の主流となり、
自治体の給付対象にならない人でも買おうと思えば買えるような
市場を形成する。

地方自治体も、介護者の声に耳を傾け、意見を聞きながら
これまで以上に介護者と協働していかなければならない。

③ NHSでの支援強化

協働する姿勢はNHSでも必要だ。
多くのGPがまだ意識が低く、介護者に対して命令口調で接し、
十分な説明をすることや介護者の意見を聞くことができていない。

「私抜きに私のことを決めないで」を理念とし、
介護者の心身の状態に心を配ることができる、
介護者支援の意識を持ったGP育成に予算を組んだ。

また、介護者のレスパイトにも400万ポンドの追加予算を組んだ。

④ 地域での民間セクターの活用

公共のサービスに留まらず、地域でボランティアの活用を推進するべく、
すでに3つの全国的介護組織に150万ポンドを支援している。

英国社会は高齢化と認知症患者の急増に直面しているが、
英国の労働環境をさらに介護者にやさしいものにするべく、
これからも企業や各種団体と協働しながら
介護者の権利を守り、介護者のニーズに配慮ある各種団体と
パートナーシップを組んで取り組んでいくべき課題であると考えている。

これは野党の時代から一貫して主張してきたこと。
政権与党となっても、実現を目指して力を尽くす。


急速な少子高齢化社会と認知症患者の急増を受け
公助だけではなく、自助、共助も含め地域で……と言われている方向性は
日本の介護保険でここ数年の間に打ち出されてきたものと、ほぼ同じ。

ただ、日本のヴィジョンに比べて、かなり散漫な印象もある。
(ボランティアの定着や組織化という点では、英国での地域づくりは
既に日本では想像もつかないほど完成度が高いのかもしれないけど)

こういうのを読むと、
日本に介護保険という制度ができたということは
やっぱり先駆的なことだったんだなぁ……と、つくづく。

介護者支援の視点では大幅に遅れをとっているものの、

だいたい30分で行ける日常生活圏域(中学校区にあたる)で
介護、医療、住まい、予防、生活支援など必要なサービスが
介護と医療それぞれの制度の協働によって地域包括支援システムで
一体的に提供される仕組みが、拠点施設を整備しつつ、描けつつある日本の方が
英国よりもはるかに具体的で、先を行っているんじゃないのかなぁ……。

世界で最も速い速度で少子高齢化が進んでいる日本は
介護と医療の連携によって高齢者を地域できちんと支え看取るモデルを
世界に示すことができるんじゃないんだろうか。

世界に冠たる、ユニヴァーサルな医療保険制度と
世界に冠たる、介護保険制度と、
世界に冠たる、その両者の連携による地域包括支援システムで
かつての北欧のように世界中から視察に人が訪れるような、
“高齢者ケア観光”立国を目指すというのだって
案外に、いい選択肢じゃないのかなぁ……と、時々考える。

科学とテクノの国際競争に勝つことだって大事かもしれないけど、
自然を克服する対象としか見ない英語圏の弱者切り捨て方向の価値観に
鼻づら引きずりまわされながら、ただ付いて行っても、あんまり良いことなさそうだし、

本当に良いものをコツコツ作ってきた日本のモノづくりの伝統と同じように、
日本の自然観、死生観ならではの高齢者ケアのモデルを
地道にコツコツと作りあげていったら、どうなんだろう。

もちろん「日本の家族介護の美しき伝統」だとか「アジアの親孝行の美風」とか
そういう前時代的な家族介護や嫁介護モデルに後戻りするのではなく、

今後の単身高齢者世帯や老老介護・認認介護世帯の増加を考えれば
個々人に介護サービスが提供される団塊の世代仕様の包括的支援の仕組み、
上野千鶴子さんが提唱している「おひとりさま」支援モデルで。

そういう新しいモデルとして世界に胸を張って示せるだけの21世紀型の
医療と介護の連携の仕組みを、もしも日本が作ることができれば、

後を追いかけてくる先進諸国から
視察や研修の依頼が引きも切らない高齢者ケア観光立国という道だって
日本にはあるんじゃないか……という気がするんだけど。

あー、もちろん、それなりの覚悟と投資は必要と思いますけど。