英国の保護裁判所、知的障害ある子宮ガン患者への強制手術を認める

英国のPSさん(55歳)には「重症の知的機能の損傷」がある。
去年、子宮がんだと診断された。

しかし針(先端?)恐怖と病院恐怖があるため、
治療を受けに病院へ行こうとしない。

がんの進行はゆっくりではあるものの、
子宮と卵管を摘出しなければ、いずれは死に繋がってしまう、
しかし本人には自己決定の能力がない、として、医師らが
強制的に手術する許可を保護裁判所に求めていた。

(記事には言及ありませんが、
 保護裁判所はMCAで作られたものなので、
 MCAに沿った手続きと思われます。)

PSさんが医師の説得に応じない場合は、
医師は強制的に鎮静剤で眠らせて病院に連れて行き手術を強行してもよい、
術後、回復するまで病院に留め置いて(detain)よい、と
このたび保護裁判所が許可。

通常、保護裁判所の決定は非公開だが、
「同様のジレンマ」に直面している人は他にもいることを考え、
敢えて判断を公開した、と裁判官。



うぅ・・・・・・。難しい。

私自身は、この判断をどう受け止めるのか、
頭の中に、あまりにも多くの問いが渦巻いて、
今の段階では定まらない。とりあえず保留にして考えてみたい。

頭の中にぐるぐる渦巻いている問いとは、例えば、以下のような事々。


・ この人の先端恐怖とか病院恐怖は通常の恐怖の範囲なのか。それとも病的なほどのものなのか。
 その専門的なアセスメントはされたのか?

・ 騙し打ちに遭い、死ぬほどイヤな手術を受けさせられるPSさんの精神的なダメージは、
 「利益とリスク」検討や「本人利益」の判断において、どのように考慮・検討されたのか? 

・ もしも術後の入院中に、PSさんが病院でのケアを拒んだり暴れたりした場合に、
 一定期間、沈静されてしまう、 または身体拘束を受けるという可能性はないのか。
 detainとは、そこまで含むのか。

・ その場合には、
 高齢者が入院したら、とたんにボケたり身体機能が低下して、 寝たきりになって帰ってきた、といった、
 よくある現象に繋がる恐れは? そういうことはリスクとして検討されたのか。

・ 医師も裁判所も、「手術」のところまでしか見ていないような気がするのだけど、
 PSさんの退院後のセルフケアについては、どこまで検討されたのか。
 そのあたりの支援は用意されているのか。

・ 障害のない患者では、病院嫌いだし進行がゆっくりなのだったら手術はいやだという
 選択もアリなのだとしたら (55歳ではありにくいかもしれないけど)?

・ では、この人が55歳でなくて、70歳とか80歳だったら?

・ MCAは愚行権を認めているのだけど、そこは医療では?
  
・ 英国では去年、26歳のうつ病患者の女性の、
 リビング・ウィルを逆手に取った治療拒否で安楽ケアを受けて自殺したいとの本人意思が、
 その場にいた医師らによって尊重されたケースがある。整合性は?

・ 例えば、こういうケースで医師がたまたま「どうせ障害者」という意識の持ち主だった場合には
 裁判所にまで行かないケースもあるのでは? 結局は担当医個人の考え方次第……というところは?



当ブログの MCA 関連エントリーは以下。


つい最近の補遺で拾ったニュースでは、なんとなくだけど、
保護裁判所が本人よりも家族寄りになっているのでは……と思わせるような匂いも。


なお、英国では医療現場における知的障害者への偏見について
去年、以下のような報告が出ています。



カナダと米国の関連エントリーは以下。