「生きた状態で臓器摘出する安楽死を」とSavulescuがBioethics誌で

当ブログでも何度か取り上げてきたトンデモ倫理学者Julian Savulescu (Oxford大)が
Bioethics誌に 「臓器提供安楽死を許すべきか」と題した論文を書き、
臓器提供安楽死(Organ Donation Euthanasia:ODE)を提唱しています。

(Savulescuに関するエントリーは文末にリンク)

彼の言うODEとは、
臓器を摘出する方法による安楽死のこと。

つまり、
生きている人から心臓も肺も臓器諸々を摘出することで死んでもらう安楽死

以下、お馴染み、Wesley Smithのブログ記事から。

現在の心臓死後提供DCDよりも
ODEの方がはるかに合理的だというのが彼の主張で、
Smithが抜き出している論文個所からすると、その理由とは

・延命が可能な患者からの生命維持治療中止は認められていて、
 その一方で患者の死後の臓器提起出も認められているなら
 わざわざ延命停止後に死ぬのを待って摘出する理由はない。

・それよりも患者に十分な麻酔を行なって心臓と肺を含む臓器を摘出すれば、
 心臓摘出後には、おのずと脳死がやってくる。

・通常の生命維持治療中止では麻酔を十分に行わないことが多いので、
 この方法の方が患者の苦痛が少ない。

・患者の選別さえ慎重に行えば、
 この方法で死ななくてもいい患者が死ぬことは起こらない。

・この方法だと臓器の血流が良好な状態を維持したまま摘出できるため、
 移植に使える臓器が採りやすい。

・現在のDCDでは患者が死ぬまでに時間がかかり過ぎて
 移植に使えるものが不足している心臓や肺も
 この方法なら供給される。

・本人と家族の臓器提供意思をより確実に生かすことができる。


さらに、Savulescuは、
どうせ間もなく死ぬ患者で本人が同意していたとしても、
生きている患者から臓器をとるのがまずいと言うなら、
ドナーを安楽死させて、心臓死を待って摘出すればよい、と説き、

それは安楽死が認められている国では論理的には可能であり、
ベルギーでは一人の患者で行われたとされている、と書いているのです。

Smithは、このベルギーの事例について
当該論文を探して、いずれブログで取り上げる、と。

最後に、SmithはPeter Singerの例を引いて
どうも、倫理学者というものは、過激で功利的な発言をすればするほど、
有名大学からお呼びがかかるものらしいとのセオリーを唱えています。



読んで、真っ先にムカついたのは、
「ただの消極的安楽死で生命維持治療をやめるんだったら
十分な麻酔をしてもらえなくて患者は苦しいけど、
生きた状態で臓器をとってもらう安楽死なら
十分に麻酔をかけてもらえるから苦しくないよ」……って、
それは、なんちゅう大ワタケの、おためごかしなんだよっ。

そんなの、もともと、
延命中止のさいに徹底されるべき緩和ケアが出来ていないということなのだから、
本当は、緩和ケアを徹底しなきゃならんという方向に行くべき話じゃないか。

それにしても、
安楽死や自殺幇助の問題が臓器不足と繋がっていく危険性については
Smithも前から書いていたし、他の多くの人も同じことを書いていたし、
日本でも小松美彦氏や森岡正博氏や立岩真也氏など、多くの人が警鐘を鳴らしてきたし、

私自身も自殺幇助合法化議論やAshley事件を追いかけながら
そちらに向かって急傾斜していく時代の空気が皮膚感覚として感じられて、
ジリジリするような気分で案じていたのですが、

よもや、こんなに早く、
しかもBioethics誌から……とは。

もっとも、やっぱりSavulescuからか……とも。
(Norman Fostも同調してくるだろうな……という予感も)

しかも、まさか、すでにベルギーで現実になっていたとは……。




【7月5日追記】
Savulescuの元論文を見つけました。
5月の段階ではOxford大学のサイトに同様の主旨の短い論文が掲載されていて、
2010年のBioethics誌に「掲載予定」とされています。


その論文とBoethics誌のアブストラクトを読んで書いたエントリーがこちら


  ―――――――

ついでに、
Savulescuは、Peter Singerの一番弟子だということだし、

Wesley Smithも Norman Fostについてはノーマークみたいだけれど、
当ブログの情報では、SavulescuとFostは、少なくともステロイド論争では、お仲間。

Norman Fostという人物も、みんな、もうちょっとマークした方がいいと
私は前から思うのだけど……。

ちなみにA事件を調べる過程で私が拾ったFostに関する英文情報のリンク集はこちらに。
(ただし一部です。その後のご活躍もなかなかです)



臓器移植に関するエントリーはこちらにまとめました。
(ただし09年4月までのもののみ。その後はバラけたままになっています)

また、「介護保険情報」誌の2009年11月号に書いた
「“国際水準の移植医療”ですでに起こっていること」はこちらに。