重症児の親 Claire Royさんによる成長抑制批判

今日のMaryland 大学のカンファレンスのAshley事件の分科会で
ビデオ講演を行う 重症児の母親 Claire Royさんが
No More Ashley X’s:Say No to Growth Attenuationという自身のブログで
講演内容を公開しています。

今までAshleyと同じような重症児の親から
こんなにまとまった、説得力のある批判が出たことはなかったように思います。

まず最初に娘Sophieさんのことが語られますが
脳死植物状態の人も含めて、いかに認知機能が医療によって把握しにくいか
Ashley療法のみでなく移植医療を含めて、いかに医療が過ちを犯すリスクが大きいか
深く考えさせるケースです。

Sophieさんは6歳までは正常な子どもでした。
6歳の時に脳幹梗塞をおこして重症重複障害を負います。
MRIをとり、小児神経科医と神経外科医がアセスメントを行ったところ、
その日のうちに脳死状態になると言われて、臓器提供を求められたと言います。

現在Sophieさんは15歳。
医師はそんなことはあり得ないと言うけれど、
通常の会話は無理にしても、話したり質問に答えることはできます。
小学校2年生程度の読み書きもゆっくりとならできます。
数も認識はしていますが、計算はできません。男の子が大好きです。

生涯、胃ろう依存になると言われましたが、
現在は3食、おやつを口から食べて、胃ろうは水分補給と薬のみに使用。

側わんや手足の拘縮があり、寝たきりで
排せつも含めて生活全般が全介助。
けいれん発作があり、呼吸が突然止まることがあるので
常時見守りが必要で、夜はClaireさんが隣のベッドで寝ています。

感覚が過敏なので、外出が耐え難い刺激になることも。
身長は現在、約153センチ、体重約27キロ。

Ashleyとほぼ同じ障害像の娘について説明し、
だから「重症児の介護を知らないから批判する」との否定は
自分については言えないはずだと語り、また同時に、
自分の身近では重症児の親の中でも批判する人だって少なくない、とも。

これらを前置きとして、
Claireさんは「もしも自分がAshleyの親の要望を検討する倫理委の
メンバーだったとしたら、親に何と言うだろうか」と問い、
「やめなさい」と言う、と繰り返し答えます。

その主な理由が2つ述べられていて、

結局のところ、全てが認知機能のレベルの問題になっているということ

脳死、よくても植物状態になると言われた自分の娘は
そうならずに、様々なことができる子どもに成長している。
身体機能が限られた人の知的機能が低く見誤られてきた事例は
Christy BrownやAnne McDonaldなど、少なくない。
また最近は、脳機能の可塑性も言われるようになってきた。

それに、知的機能の正常な子どもに行われた場合には
Ashley療法は「ショッキングなほど不適切」だと
Ashleyの親自身がブログで書いている。

すなわち身体の統合性への侵害を正当化するのは
知的機能の低さ以外の何でもない。

本人の利益というのは表向きで、本当の理由は
成長抑制を推進している主要人物たちの発言の行間ににじんでいる

ここでClaireさんが引用するのは以下の3つ。

・06年Gunther&Diekema論文の一節が
成長抑制の利点として介護負担軽減を言っている個所。

・すっかり有名になったDvorskyの「グロテスク」発言


そして、
これらのどこにも倫理的なものはなく、あるのは差別だけだ、と指摘。

その後の要旨は、以下。

かつては普通の子どもだった娘は重症障害を持つ子どもとなったけれど、
それでもSophieの成長は親にとっては喜びであり、
それは障害のない子どもの親と変わらない。

確かに重症児のケアをする生活は大変で
親は疲れたり、苦しかったりフラストレーションを感じることもあるけれど、
弱い子どもを守り育てることも、我が子が一人の人として成長し発達していくために
力を尽くすのも価値のあることである。

健康な子どもを託された親と同じように
我々も親として子どもの命を託されたのであり、一日一日、守り、ケアし、
社会が望むようにではなく、ありのままのその子として尊重することが
我々の義務であり、幸運でもある。

重症児は多くのことを我々にも、社会にも教えてくれる。

成長抑制は子どもへの利益でもなければ、解決策でもない。
子どもたちは「問題」でもなければ「ジレンマ」でもない。
子どもたちは、尊重すべき人なのだから。

Claireさんに日本からスタンディング・オベーションを。