Diekemaらの成長抑制論文に医師らからの批判

ちょっと遅ればせの記事になりますが、

Diekema、Fost両医師他が去年6月に小児科学会誌に成長抑制に関する論文を書き、
早々と一般化する場合のスタンダードを設定しようと試みたことは、
既にいくつかのエントリーにまとめました(詳細は文末にリンク)が、

それに対して、去年6,7月のうちに
AARP誌のサイトに反論が3つ寄せられていました。


それぞれの主要な論点について、簡単に以下に。

① Garey Noritz医師:Case Western Univ. School of Med.

・著者らが主張する成長抑制療法の安全性についても効果についても証明されていない。

・3歳段階で選択肢として親に提示せよとの提案は早すぎる。
 3歳では障害が将来どういう状態で固まるかを正確に予測することは不能
 
・成長抑制目的での小児に対するエストロゲンの大量投与は
著者らが書いているよりもはるかに、これまでの一般的な医療と距離がある。

・新しく過激な医療として、ダウン症児への心臓や腸の手術と
知的障害女性に対するルーティーンとしての不妊手術があったが、
時を経て前者はスタンダードな医療となり後者はすたれることとなった。
成長抑制がどちらになるかはまだ分からない。

② Miriam A. Kalichman医師:Division of Specialised Care for Children, Univ. of Illinois

・親は老いていくという事実を考えると、いつまでも介護可能な身長も体重もあり得ず、
 可能な選択肢は障害のある成人への集団介護以外にはない。
 
・この治療は、正常な身体に手を加えるものであり、
それは自分の知る限り他には不妊手術以外に存在しない。
ロボトミーや、障害があることを理由に髄膜瘤をしなかったり
ダウン症児の心臓病を治療しなかったり、など
これまで医師と親とは、偏見やサービスに対する無知から
発達障害のある人たちへの医療について不幸な決断を行ってきたのである。

・著者らの「重症認知障害」の定義はあまりにも曖昧であり、
特に3歳段階でコミュニケーション能力について断定的な診断が可能と考えることは
明らかな誤りで、その後の育て方によって変ってくる。
また仮に診断が可能であるとしても、3歳段階で将来のことまで決めるには
親がまだ混乱している。

・ケアについて言えば、歩かない全介助の重症児よりも、
飛び出して行って攻撃的な行動をとる子どもの方が手がかかる。
そういう子どもこそ10歳になっても成人しても親がケアするためには
成長抑制が有効なのでは?

③ Michelle Kuperminc医師: Univ. of Virginia

・この療法によって実際に子どものQOLが向上するというエビデンスはない一方、
 重症身体障害のある子どもは遺伝的最終身長まで伸びないというエビデンスはあり、
 障害像に応じて、その子の成長を予測することも可能となりつつある。
 ただ遺伝的に背が高くなりそうだからと将来に不安を感じる親には
 こうした予測も情報提供すべきである。

・次のステップは治験であろうが、十分なエビデンスもないまま、
将来を予測したうえでの療法として親に提示するのは時期尚早である。

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Noritz医師とKuperminc医師の批判には、
効果があるとのエビデンスがあれば、また知的障害の重さが正確に診断可能なのであれば
許容されるが……との前提があること、

そのため、Noritz医師の「時代と経験によって、いずれに振り分けられるか」にしろ
Kuperminc医師の「次のステップはランダムな実験」にしろ
この段階で広く一般化して推奨するのは賛成しないものの
個別に行われるケースはデータ化して効果を検証すべきだとの姿勢になっていることも
成長抑制療法そのものの倫理的検討の必要が認識されていないという点で気になります。

親が老いるという事実が成長抑制正当化の論理からは排除されているというのは
当ブログが以前から指摘してきたことの1つですが
英文での批判としてはKalichman医師の指摘が初めてではないかと思います。

もっとも、その解決には集団介護以外の解決策はないという個所については
議論が分かれるところでしょうが、敢えて施設と言っていないことには含みもあるのかもしれせん。

しかし、何よりもほっとするのは、やはり
医師と親の障害者に対する偏見によって間違った医療上の判断がされてきた歴史を
ちゃんと自覚している医師もいるのだ、という事実――。