人類は2040年に滅亡、でもグローバル福祉国家は通産相兼務の厚生相がご活躍だから大丈夫?

以下の本を読んだ。

定常型社会
新しい「豊かさ」の構想
広井良典岩波新書

私なりの、著者に申し訳ないほど、がさつな言葉でいえば、
成長とか前のめりの前進とか能力だけを価値とするガツガツ文化からの脱却が提案され、
持続可能な福祉国家としての定常型社会をどうやって実現していくかが
考察されているのだと思う。

環境税」とはいかなるものか、なぜ社会保障財源として環境税が妥当なのかについて
全く白紙状態だったので、なるほど~と、とりあえず思った。

(この程度の理解では、すぐに頭から消えてしまったので、
その内容までを説明できなくてスミマセン)

この本の内容については、正直、これ以上のことを書けるほど分かってはいないので、
ここでは、個人的に特に印象的だったこと、考えたことのみ。

広井氏の「これからは定住型社会に切り替えなければ」という主張は
当初、日本の社会保障のあり方という枠組みの中で進められるのだけれど、
今の世の中で、それは日本の中だけでどうにかなる問題ではないわけだから、
100ページめくらいから、この問題を世界に広げて見てみると、という話に移っていく。

で、

 現在、市場は国境を超えて一元化していく一方、社会保障を始めとした社会制度や意思決定は国家を単位として行われているという矛盾が拡大しており、「世界政府なき世界経済が創り出されている」(アーサー・シュレンジャー)という状況にある。……

 地球レベルの社会保障といっても、理念としてはともかく、現実には想像しがたい印象があるかもしれない。が、たとえばEUのレベルにおいては、まず格好の社会保障制度の調整ひいては部分的な制度内容の統一ということが進めれられているおり、……

 社会保障福祉国家の問題を超国家的(supernational)なレベルで考える時代になっているということであるが、これはヨーロッパに限られたことではない。社会保障制度のあり方は、とりわけ経済のグローバリゼーションの中で、これまでのように一国完結型の問題ではなくなっているのであり、今後こうした傾向はますます強まっていくことになるだろう。……

 つまり、地球という大きなコミュニティ――地球という大きな“福祉国家”と言ってもよい――の中で、そこでの(人が生産する)富ないしパイの「大きさ」に関わるのが(地球)環境問題であり、そこでのパイの「再分配」に関わるのが地球レベルの社会保障ということになる。……
(p.107-109)


ここで書かれている「世界政府なき世界経済」というのは、
すっごく僭越なのだけれども、以下のエントリーで私が書いた世界観と同じじゃないだろうか。


広井氏が社会保障という視点から書いておられることを
科学とテクノの視点から書きなおしてみると、こういうことになるんじゃないだろうか。

私の世界観の方が圧倒的に悲観的だけど、
それは、広井氏がご自身の発言の影響力の大きさを
ちゃんとわきまえて書いておられるからに、たぶん、すぎないのだろうと思う。

そして、私は学者でも著名人でもないから、個人的な考えとして無責任に書いてしまうけど、

世界政府はなくても、また、いつ、誰によって任命手続きが行われたのか不明でも、
この地球国家で、厚生大臣だけは、すでに大いに活躍しておられる、とも思う。

我らが厚生相の「骨太の方針」も持続可能なグローバル“福祉国家”を目指すことだ。

誰も病気にならず、誰も障害を負うことのない世界――。
それに勝る保健施策が、一体どこにある――?

しかも、それを、ビジネスモデル・コスト効率重視で合理的にやろうとしている。
なにしろ、この厚生大臣通産相兼務だもの。

NBIC各分野のテクノロジーが進めば、経済も活性化して、
社会保障なんて無用の、持続可能な超人類世界がやってくるじゃないか――。

ついでに、この厚生・通産大臣は財閥でもある。
グローバル福祉国家には、今のところ財務相を置くほどの歳入などないけれど、
財閥が大臣を2つも兼務しつつ、大きな財布から気前よくゼニも出してくれるとなれば、
まぁ、その人が財務相のようなものかもしれない。

縦割り行政も縄張り意識もないのだから、もちろん施策のフットワークは、とても軽い。

中国と言う名前の地方自治区域(この単位を国と称する)で、
どうも官僚が役立たずだと判断するや即座に中央厚生官僚を派遣して介入したりする。
もちろん潤沢な予算をつけて送り出すのだから、誰からも
内政干渉だ」とか「国家の主権は?」なんて抵抗は起こらない。

こんな何もかも兼務の大臣が、財布を持って、フットワーク軽く策を敷いて歩いてくのだから、
いろいろ複雑な国家間の利害だって調整しやすいというものだ。

また、そのガマ口には「愛と善意」と大書してある。
愛とゼニ。最強の組み合わせだ。そんなの、誰も逆らえない――。



             ―――――――

ところで、広井氏のこの本の中には、
今まで聞いたことのなかった、極めつけの「コワイ話」が語られている。

 言い換えれば私たちは、この「高齢化の地球的進行」という点も視野におさめた上で、そろそろ世界全体が向かうべきある種の「収束点」、目指すべきゴールのようなものを考えていくべき時代に入っている。
(p.110)

で、そういう「収束点」のイメージを得るための参考として
著者が紹介しているのがドネラ・H・メドウズ他の「限界を超えて」という報告書。
地球社会の未来のシュミレーションがあるらしい。

それから、国連の長期予測推計で
世界の人口が現在の60億から2100年に112億前後に達して、
それ以降、安定するとされている一方で、現在のパターンだと、
2040年ごろ、世界人口が95億に達した時点で、
環境汚染、食料枯渇等により、破局を迎えるとされる」。

げぇぇっ。
知ってました? この話?

SFじゃなくて、現実の国連の推計ですよ。国連の。
その推計が、「あと30年」と予測している――。

ああ、そこで「死の自己決定権」なのか……。

そして、30年という時間は、もしかしたら、
今でもアフリカの各地にじわじわと広がっている
無政府状態に陥り、文字通りの弱肉強食が横行している地域が
グローバル化したネオリベ世界にさらに広がっていき、
そういう地域が一定の割合まで地球上を覆い尽くすのに要する時間として、
なんだか、とても説得力があるような気がする……。

そういえば、トランスヒューマニストの親玉に
Oxford大学のNick Bostromという人がいて、
この人が2002年に以下の論文を書いている。


実存的リスク:人類滅亡のシナリオと関与する危険ファクター

Hazardsが、うまく訳せませんが、
地球温暖化とか経済危機とか大量殺りくとか
人類を滅亡に導く現象や出来事などのことを言っています。

2007年のAshley療法論争の際にこの論文を知り、
いつか読もうと思っているうちに、もう2010年になってしまいました。

Bostromは世界トランスヒューマニスト協会の生みの親ですから、
科学とテクノによって人類を超人類に生まれ変わらせることによって
絶滅を防ごう、という結論になるのだろうとは思うのですが、
(Bill Gates氏は、TH二ストたちの間でも、もちろんヒーロー)

2040までに、早く読まなくては……。