発がんリスクが半減する薬だっていうのに、なんで飲まないの?

ねぇ。もしも……よ。もしも、誰かが、
癌になるリスクを半分に落とす薬を発明してくれたとしたら
あなた、飲む? 

もちろん飲むわよね。
飲まない人なんて、いないわ。そうでしょ? 

その薬、実は、もうずっと前に出来ているのよ。

乳がんリスクを半分にする tamoxifenっていう薬。
アロマターゼ阻害剤といって、体内のエストロゲンの量を下げてくれる、すぐれもの。

それに今では乳がんのリスク・ファクターだって、
40歳以上で身内の女性が乳がんになったことがあるとか、
その人自身が生検で細胞異常が出たことがあるとか
ちゃんと分かっていて、

例えばあなたが52歳で、30過ぎてから子どもを産んだ人で、
あなたの母親が乳がんになっていたとすると、
あなたの今後5年間のリスクは1,9%。

つまり、あなたと同じ女性が1000人いたとしたら、
その中の19人は5年以内に乳がんになる、ということ。

こういうのは、今ではインターネットのリスク・スコアのページがいくらでもあって、
たちどころに計算してもらえるのよ。知らなかった?

で、仮に、tamoxifen をあなたと同じような女性の全員が飲んだとすると、
乳がんになるはずの19人のうちの9人は発症を免れることができる。

しかも、その中の13人には、骨粗しょう症による骨折を免れるというボーナスまでつく。

それなのに、なぜか、この薬、みんなが飲みたがらないのよ。
調査すると、ほぼ全員が、こんな薬は飲まないと思うって答える。
80%が「副作用が心配だから」って。

そりゃ、確かに副作用はあるわよ。それも、まぁ、深刻なのがあることはある。
例えば、さっきの52歳の1000人みんながtamaxifenを飲んだら、
そのうちの21人は乳がんの他に、きっと子宮ガンになる。
あ、もちろん早期発見できれば普通は治療できるから大丈夫なんだけど。

それから、さらに21人には血栓ができるでしょうね。
31人が白内障になって、12人はセックスにトラブルが起きる。

それから1000人のうち半数には
この薬を飲まなくても、自然に“のぼせ”などの更年期症状が起きてくるわけだけど、
tamoxifenが原因で更年期症状が起きる人が、そこに120人追加される。

もちろん副作用をあなどってはいけないけど、でもさ、
だからといって tamoxifen を飲まないことのリスクもちゃんと考えた方がよくない?

そこのとことを、みんな、わかってないのよね。
何かを“する”ことのリスクにばっかり頭が行っちゃってて、
何かを“しない”のリスクの方はてんで見えていない。

でも、ほら、例えば百日咳のワクチンを打たないで
子どもが百日咳にやられることを考えてみなさいよ。
打てるワクチンがあるのに使わないことのリスクがいかに大きいか。
そんなの、すぐに分かることじゃない。
なんで、こんな簡単なことが理解できないのかしら。

ハイ・リスク患者のがん予防治療にどんどんフォーカスしている研究者の間では
ほんと、これ、頭の痛い問題なのよ。

NYのKettering がんセンターの乳がん専門医のLarry Norton先生なんて
「さても複雑な人間心理よ……」と嘆きつつも

研究が進んで、もっと副作用の少ないアロマターゼ阻害剤ができれば、
みんなが乳がん予防薬を飲んでくれるようになるんじゃないか……って。

ほんと、お医者様って、ありがたいわよねぇ…。

When Lowering the Odds of Cancer Isn’t Enough
By Tara Parker-Pope
The NY Times, December 14, 2009


以上、記事内容は忠実にとりまとめつつ、
トーンについてのみspitzibaraの感性に響いてきたままに書いてみました。

(あ、最後の1行だけは、spitzibaraの勝手な追加です)

記事によると、乳がん予防薬としては、他にも raloxifene という薬があって、
男性の前立腺がん予防薬では、 finasteride というのがあるんだとか。



ここでは、乳がん予防のために体内のエストロゲンを下げた方がいい、という話ですが、
でも「更年期から後、失われるエストロゲンは補いましょう」といわれて乳がんになった……と
いう話もありまして、そちらの話を、こちらのエントリーで拾ったばかり。


こちらの記事でも「少々の副作用はあっても、病気予防効果という利益の方が大きい」という声があります。
ただし「少々の副作用」といわれているものが、こちらでは乳がんリスクだったりするわけですが。

そういえば、こういうのも。