Dignitasの内部をGuardianが独占取材

Amelia Gentleman というジャーナリストがDignitasを直接訪れて、独占取材。
記事がGuardianに掲載されています。

Inside the Dignitas house
The Guardian, November 18, 2009

同行カメラマンによるDignitasの内部の写真10枚はこちらから。

今年の夏に会員からの寄付など約100万ユーロで
Pfaffikonというところに2階建ての家を購入しており、
その内部も一部公開されています。

創設者のLudwig Minelli氏(76)のインタビューによると、

Dignitasが1998年の創設以来、自殺を幇助した人数は60カ国からの1032人。うち英国人132人。
使用するのは60ccの水に溶いた致死薬15ミリグラム。

(ここでは模倣を恐れて詳細は明かさないと語っていますが、
これまでの報道ではペントバルビツールと言われています)。

最近つとに有名になったMinelli氏のところには
いきなり押しかけてきて自殺したいと幇助を求める“飛び込み”が増えているが
来た人には丁寧に応対して返す。中には決意を翻した人も。

Dignitasのサービスを受けるには所定の手続きが必要で、

・  まず、47ポンドを支払ってDignitasの会員となる(会員には誰でもなれる)。

・  死にたい時期がきたら、医療記録と何故死にたいほど耐え難いかを書いた手紙、それから1860ポンドをDignitasに送る。

・  資料がDignitasと提携している医師に送られ、医師が致死薬の処方を書けるかどうかの判断を行う。

・  医師がOKしたら会員に連絡が行き、会員がDignitas本部の担当者と打ち合わせに入る。

・ 会員がチューリッヒに着くと、医師の2回分の診察代金620ポンドと、Dingnitasの担当者2人への報酬として、さらに1860ポンドの支払いが必要となる。ただし払えない人には減額される。

・  スイスの法律は自殺幇助を認めているが安楽死は禁じているので、会員が自分で飲まなければならない。自分で飲み込めない人には、ボタンを押したら自動的に投与される装置が用意されている。その場面はビデオ録画される。

Minelli氏は自分たちがいかに自殺希望者の動機を精査しているかを強調し、
ターミナルな病状の人やALS、MSなど苦しんで死ぬことが避けられない人たちが
苦しまずに死にたいと望む気持ちを代弁していますが、

Gentleman氏は実際にはMinelli氏がそういう人以外も幇助してきたことを指摘。
(詳細は文末のリンクに)

そこでMinelli氏が述べるのは
ターミナルな病状の人だけでなく死にたい人なら誰でも死ぬ権利があるべきであり、
自分は彼らの死にたい気持ちについて道徳的にどうこう評価することはしない。
道徳といっても、宗教によって多様なのだから道徳は論じない。
自己決定という無神論原則でやっている。

スイスの刑法セクション115にあるのは
利己的な動機によって自殺を幇助したものは5年以下の懲役刑に処せられるとの規定。
Dignitasなど自殺幇助機関は利己的な動機がなければ自殺幇助は合法であるとの解釈するが、
スイスの医療規制では健康な人への薬の処方は禁じられており、
特に精神障害者への自殺幇助には制約を設けている。

Minelli氏は、長年うつ病に苦しみ続けてきた人が死にたいと望んでいるのに、
この先まだ何年も苦しみ続けろとはいえないと語り、
今のところ家での自殺方法をアドバイスするにとどめている、と。

これまでの幇助で起訴されたことはないが政府との訴訟はいくつか抱えている。

Miinelli氏は以下の3つの信念に基づいて、
自殺のタブー視をやめ「耐え難い状況から撤退する“素晴らしい機会”」と捉えるべきと説く。

・ 自殺について自由に語れることによって自殺願望は弱くなる。

・ 幇助を漠然とでも約束されることで苦しまずに死ねると安心する。
(彼の調査ではOKの出た会員の8割は自殺しない)

・ 適切な自殺幇助サービスを提供することで、未遂の後遺症を防げるので
医療費全体への負担が軽減される。

ただ、彼自身は自殺の現場には立ち会ったことはない。
実際の幇助を行うのは元会員だったというスタッフの女性Beatrice Bucherさん。

自殺当日、希望者は11時までにDignitasにやってくる。
これは死後の関連手続きを役所の勤務時間内に終わらせるため。

会員は家族や友人と一緒に来るように勧められており、
最後の時間に適したレストランや娯楽施設の情報提供も受ける。

Dignitasにやってくるとスタッフ2人と丸テーブルを囲み、
多くの書類に署名をするなどの事務手続きを行う。
致死薬の30分前に吐き気止めを飲むが、そのタイミングは会員が決める。
自分の人生を延々と語ってもかまわない。
かける音楽や、その他の詳細はすべて本人が決める。

いよいよ致死薬を飲む時には、
座って息を引き取ると、口が開き体がぐったりして家族が衝撃を受けるので、
それを避けるために横になるよう勧める。

一旦飲むとすぐに意識が朦朧とするので、飲む前に家族とお別れの言葉を交わしてもらう。
たいていの人は冷静で、感謝し、死ねることを喜んでいる。

亡くなると、葬儀屋と警察に連絡を入れる。
警察は隣の部屋で録画を見て報告書を書く。
自殺者が着ていた衣類は2階で洗濯し、箱に入れておいて赤十字に届ける。

Dignitasの本部は夏に購入したPfaffikkonの家から車で20分ほどの
Minelli氏の自宅近くにあり、スタッフは非常勤10人。
Minelli氏の仕事の中心は、この事務所で書類仕事と法律問題の処理をすること。

訴訟のコストが毎年10万ポンドかかる。
彼自身は給料を取っておらず、Dignitasの経営でむしろ借金を抱えた、と。

    ―――――――

書かれていることは、だいたい、これまで報じられてきたことですが
ちょっと、びっくりしたのは、どうやら実質的には
Minelli氏一人がやっている組織らしいということ。

記事の中に、Dignitasに批判的な検事のひとりが
「Minelliさえ死んでしまえば問題解決だ」と発言したエピソードが出てくるのですが、
Dignitasとは、すなわちMinelli氏個人に他ならない、こうした実態から出てきた言葉なのでしょう。

そのくせ、彼自身は実際は手を汚さないで非常勤職員にやらせている……。

なお、この記事でも触れられていますし当ブログでも拾っているように、
スイス政府は現在、自国が国際的に自殺ツーリズムで名前を馳せていることを憂慮し、
Dignitas他の自殺幇助機関の規制を、禁止も含めて検討中

この取材を受けたことそのものが、そうした動きに対する警戒と懐柔策なのでしょう。


今年6月1月段階で、英国における自殺幇助関連の動きをまとめたエントリーはこちら