新型インフル大流行時に「呼吸器を使わせない患者」基準作りが進んでいる(米)

1918年のインフルエンザの大流行では
世界中で5000万人が死んだとされているが、

万が一、新型インフルのウィルスが変異して悪性化し、
当時に匹敵するような世界的な大流行となった場合に、
家族の希望に関わらず人工呼吸器を取り外す患者の基準づくりが
米国の関係者の間で進んでいる。

たたき台に使われているのは
2年前にNYの関係者らが発表し、現在、決定版を作るための検討過程にある
「ニューヨーク・プロトコル」と呼ばれるトリアージガイドライン

NYプロトコルの作成過程では
1918年次のパンデミックの教訓を元にシミュレーションをしたところ、
まず呼吸器が圧倒的に不足することが分かったため、

プロトコルでは対策の1つとして、
パンデミックの間、緊急度の低い手術を禁止して呼吸器を確保する。

次にNYでは1200台の呼吸器を追加購入して、
中等度の流行には対処できるだけの数を確保した。

その次の、さらに本格的大流行が起きた場合の第3の策として、
呼吸器の配給制度を定めているもの。

腎臓障害、転移して予後の悪い癌、死に至る可能性のある「重症で不可逆的な神経障害」など
慢性的な重病のある人たちから家族の意向に関わりなく呼吸器を引き上げるとしており、

患者本人や家族の同意なしには呼吸器をとりはずすことを禁じた州法への
法的な対応策が現在、検討されている。

また、担当患者を巡って医師らからの綱引きや圧力を想定して、
患者選別の担当者は極秘とされることもNYプロトコルには含まれている。

2007年に発表された際には、
今後、広く一般や高齢者、障害者、有色人種の地域住民、子どもを持つ人などから
意見を聞いて最終的なヴァージョンを作ると言われていたが、
こうした人たちの利益は生命倫理学者が十分考慮しているというだけで
直接的な意見聴取はほとんど行われていない。

また、カナダのオンタリオの保健医療当局が2006年に開発したプロトコルもあり、
こちらは集中治療室に送る患者の優先順位をつけるために
臓器の機能の量的アセスメント・ツール、
The Sequential Organ Failure Assessment (SOFA)スコアを考案している。

生存率を予測できるものではなく、また子どもでの利用はまだ未調査だが、
今回NY プロトコルを元に基準を作っている米国の専門家は
他にトリアージの基準がないことから、SOFAに注目している。

これら専門家の会議は非公開。

州によっては、災害時の医療に関して医療関係者を免責する法律を作っている州も
ルイジアナインディアナ他、何州かあり、

コロラド州他では、これらの問題に対処するための
特別命令(executive order)も用意されている。

災害時、緊急時のトリアージには批判が起こりにくいが、
近く災害時の医療に関する著書を上梓する予定の
カリフォルニア大学Irvine校のDr. Carl Schultzは
こんなプロトコルは政府にとっても企業にとっても
医療の質を上げる必要から開放してくれるのだから、
金銭的にも運営上もメリットが大きい、と批判的。

医療のスタンダードを下げることの問題は、
どこで止まるか、どこまで下げるのか、ということ。
これ以上、災害対応に資源をつぎ込みたくなければ、下げ続ければいいことになる」と。

木曜日の朝、米国保健省の依頼を受けたthe Institute of Medicineから
報告書が出される予定とのこと。



9月24日付で刊行されたthe Institute of Medicineの報告書は以下。
有料冊子のようです。