Purdyさんの訴え認め、最高裁が自殺幇助で法の明確化を求める(英)

英国の裁判制度がよく分かっていないので
私は2月にDebby Purdyさんの件は片が付いたのだとばかり思っていたのですが、
2月は上訴裁判所の判断で、その後、最高裁に持ち込まれていたらしく、

昨日からメディアが、
まるで自殺幇助そのものが合法化されるかのように先走ったトーンで騒いでいました。

その最高裁が今日、
自殺幇助のために海外へ付き添う人の行為について
The Director of Public Prosecutions(ネットでは公訴局長官/DPP)は
明確な方針を表明する必要があるとの判断を下した、と。

最高裁の5人の法務卿(上院議員から選ばれる12人が最高裁判事)の判断として
記事には以下のような言葉が引用されています。

Everyone has the right to respect for their private life and the way that Ms. Purdy determines to spend the closing moments of her life is part of the act of living.

プライベートな生活を尊重してもらう権利が万人にある。Purdyさんが自分の人生の最後の時を自分で決めたように過ごすことも、その人が生きるという行為の一部である。

Mr. Purdy wishes to avoid an undignified and distressing end to her life. She is entitled to ask that this too must be respected.

Purdyさんは尊厳のない苦しい死に方をしたくないと望んでおり、これも尊重してほしいと求める権利が彼女にはある(? entitled)。

これを受けてDPPは急ぎ作業チームを作って
なるべく早く、起訴にあたっての細かい原則を整理し
9月末をメドに、暫定的な方針を作る、と。

さらに来年1月に新たな方針を発表するに当たっては
広く一般からの意見聴取を行う、とも。

自殺幇助合法化推進派が勝利に沸く一方、
弱者の人権擁護の観点から懸念するRight to Life の幹部 Phyllis Bowman氏は
弁護士に相談して必要な行動をとる、と。



これまでの経過では
去年10月の高等裁判所も今年2月の上訴裁判所も
裁判所は法律にのっとって判断はできるが
法律を変えることは裁判所の仕事ではないとの立場から
Purdyさんの求めを却下してきたし、

さらにPurdyさんの裁判に呼応して
合法化推進派の議員から提出された法改正案は
7月上旬に上院で否決されたのだから、

まっとうに筋の通る考え方をすれば、最高裁のこの判断は、
現行法の解釈を明確にせよ、というだけの判断かと思ったし、

DPPが作ると言っている方針も、
海外へ付き添う行為が、どういう場合に起訴対象となり、どういう場合にはならないか、
そうした条件を明確に示すものとしてのみ読めるので、
それ自体に筋の通らないものは感じないのですが、

しかし、記事に引用された法務卿らの言葉には
確かに昨日メディアが騒いでいたように
自殺幇助合法化そのものに一歩踏み込んでいて、
そこが、立法・司法制度の中で先の上院での否決とどう整合されるか……。

立法府である議会が法改正を否決したというのに、
どうして最高裁が法の明確化という名目で、
自殺幇助を認めるに等しいところまで踏み込んだ判断を下せるのか、
私にはさっぱり……。

それに、引用の発言、
どういう死に方をするかは個人のプライバシー権だとの解釈が可能では?
これ、ものすごく危うい発言ではないでしょうか。

しかも「尊厳がなく苦しい」という言葉を安易に使って。

最高裁がこんなことを言ってしまったのでは
「ターミナル」も「耐えがたい苦痛」もおかまいなしで
誰でも対象になる、ぐずぐずの自殺幇助OK議論に
お墨付きを与えてしまうようなものではないのでしょうか?

ちっとも筋というものが通っていない! と私は感じるのだけど、
物事の筋道も、論理の繋がりも、もはや、どこの国でも、勢いで、すっとばされていくばかり。

英国の自殺幇助議論、一気に加速して動きそうな、嫌な予感がします。


ちなみに、今年秋にも最高裁が上院から独立した機関となるため、
上院(the House of Lords)と同じ呼び方をされている現在の最高裁が行う聴聞としては
Purdy さんの件が最後だとのこと。


関連記事を随時、以下に追記していきます。

Assisted suicide – statement from the CPS
Directgov. July 31, 2009(判決を受け、英国政府のサイトに検察局からの声明)


Debby Purdy wins assisted suicide ruling (Videoあり)
Yahoo!news UK & Ireland, July 30, 2009



Assisted suicide ruling: What the panel of law lords said
The Guardian, July 30, 2009
(これ、重要。法務卿の発言、メディアのトーンとニュアンスが違うかも?)

A victory for human rights
By Stephen Cragg
The Guardian, July 30, 2009

Debbie Purdy: profile
The Guardian, July 30, 2009



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英国の最高裁については、以下の3つを参照しました。
特にYahoo!の知恵袋がよく整理されて貴重な情報のように思われます。