心臓病の子の父に「うちの子の心臓をあげる」と約束してヒーローになった父、呼吸器をはずしても生きる我が子に困惑(再掲)

これもまた、脳死臓器移植法改正 A案可決で、
どうしても再掲したくなった、ついこの4月のカナダの事件。

以下、4月13日のエントリーの再掲になります。

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2人の父親、特に片方が
病院の前で定期的に記者会見を行うがごときメディアへの露出振り。
しかも、饒舌な割りにちょっと支離滅裂で、
事実関係も含めて、よく分からない事件ではあるのですが、

おおよそ、こういう事件だったのではないかと思われるところをまとめてみると、

Jason Wallace と Crystal Vitelli夫妻は、
生まれたばかりの娘Kayleeが重病なため、
トロントの子ども病院でずっと付き添っているうちに

Kayleeよりも少し遅く生まれたLilianの両親
Kevin O’Connor とMelanie Bernard夫妻と出会い、親しくなった。

Kayleeは重症のJoubert 症候群
人工呼吸器をつけているが、いずれにしても長くは生きない。
生き延びたとしても重い障害を負うことが確実視されている。

片やLilianは心臓病で、すぐに移植すれば命が助かる。

そこでKayleeの両親はLilianの両親に
「じゃぁ、うちの子の心臓をあげよう」と申し出た。

それだけでなく、
表に出たがりだったらしい父親2人がメディアにせっせと露出したものだから
たちまちのうちに「美しい命の贈り物」の美談ができあがり、
Jason Wallaceは国民的ヒーローに。

そして4月7日。
近親者がベッドを取り囲んでお別れのセレモニーを行った後に
いよいよKayleeの呼吸器が取り外された。

ところが、Kayleeは死ななかった。
自力で呼吸を続けたばかりか、写真のように元気に生きている。

(再掲したら写真が消えてしまったのですが、
Kayleeちゃんの写真は文末の続報リンクにあります)

8日以降、それでもまだメディアの取材を受けるべく姿を現すWallaceのいうことは
どんどん支離滅裂になってきている感じがするのですが、
以下の記事から、だいたい彼が言わんとしているのは、こんなところか。

どうせ死ぬし、生き延びても重症障害児になるんだったら、
いっそ誰かの命を救って死ぬほうが、この子の命には価値があると思えた。
そういう形で尊厳のある死に方をさせてやりたかった。

でも、呼吸器をはずしても、こんなに元気そうだなんて、ショックだ。

医師は最初の日から「QOLが低い」と、そればっかり言っていたし
診断された直後には栄養と水分を断って死なせるのも選択肢だと言ったり
呼吸器をはずしても死なないと分かった晩にも
「お父さんはもう余計なことを言わずに黙って、
娘さんに尊厳のある死を迎えさせてあげなさい」と失礼なことを言うので
セキュリティがやってくる大喧嘩になった。

結局、医師は娘の心臓が移植に適した状態から外れていくにつれて診断を二転三転させ、
親はそれに振り回されたってことだ。
もう何がなんだかワケが分からない。

自然に死なせてやりたかったのだけど、
このまま元気になるのだったら娘は家につれて帰ってやりたい。
だけど、死ぬんだったら、次に子どもを作る時には出生前遺伝子診断を受ける。
生む前に分かっていたら、この子は生まなかったのに。


この事件で疑問視されている問題は

この移植の判断の妥当性
病院側は最初からLillianはリストのトップだったというが
メディアが煽った世論からのプレッシャーで政治的判断があったのでは、との疑惑。

公平な臓器移植の優先順位の原則
臓器移植はドナーの気持ちではなく「ニーズが切迫している順に」という優先順位の原則は?

・ Kayleeの診断の正確さ
重症と診断されていたはずのKayleeが呼吸器をはずしても元気に生きていることから
医師は「考えていたよりも軽症だったかも」と。




Rushing to judge others
The Toronto Star (editorial), April 10, 2009



イマイチよく分からない感じのする事件なので、
自分としてどう考えるかについては、とりあえず保留なのだけど、
なんということもなく、これを関連エントリーとして挙げておきたい気分になった。

葬式(2009/3/29)