英国「NHS憲章」で患者・医療サイドの権利と責任を明確化

英国医療改革のポピュリズムのエントリーで書いたように
英国では去年、NHSが創設から60周年になるのを機に
High Quality Care for All: NHS Next Stage Review final reportによって
今後10年間の医療改革の方向性が示されました。

その際、同時に提示されたのが英国初の「NHS憲章」の草案。

NHSサービスを巡り、
患者と医療従事者双方の権利と責任、
それに対してNHSが約束する内容を明確にしようとするもの。

NHSのWebサイトに公開されて、
コンサルテーション(国民からの意見募集)が行われていましたが
1月21日、いよいよ法的拘束力を持つ「NHS憲章」が公式に発表されたとのこと。
今後は10年ごとに見なおされるとのこと。

去年の草案段階では
患者にはNHSで受けられる治療を選択する権利があると謳われていましたが、
コンサルテーションで「情報提供が保障されていなければ選択しようがない」との声がでたため、
NHSで無料で受けることのできる治療の選択肢は全て説明してもらう権利が
患者には保障される、と一歩踏み込んだ内容に。

この点についてGuardianは
NHS憲章で「医師が一番わかっている」というパターナリズムの時代が終わる、と。

明記されているのは25の患者の権利で、例えば
・ GPを選ぶ権利、特定の医師にかかる権利
・ NICE推奨の医薬品と治療へのアクセス権
・ The Joint Committee on Vaccination and Immunisation 推奨のワクチンへのアクセス権
(が、親に子どもへのワクチン接種が義務付けらるわけではありません)
・ プライバシー、守秘、NHSが個人情報を外部に漏らさないよう求める権利

一方、患者の責任とされているものとしては、例えば
・ GPに登録すること
・ NHSのスタッフや他の患者に敬意を持って接すること
・ 自分が同意した治療を続けること。それが困難な時は医師に話すこと。
・ 医師に正しい情報を提供すること。
・ 無茶苦茶な予約の取り方やキャンセルをしないこと。
・ 予約をきちんと守ること。

患者が責任を果たさないことによって罰せられることはありません。
また、喫煙、飲酒、肥満を理由に治療が差し控えられることはないとも明記されました。

(NHSのサイトを覗いてみましたが、
今の段階ではまだ去年6月の草案しか見つかりませんでした。)

NHS constitution ends era of ‘doctor knows best’
The Guardian, January 21, 2009/01/22

Rights and responsibilities under the NHS constitution
The Guardian, January 21, 2009/01/22


喫煙、飲酒、肥満については
医療資源の無駄遣いだとする自己責任論があちこちで聞かれるようになっていたので
治療が保障されたことは喜ばしい材料かも。

しかし、それなら重症障害によって治療が差し控えられるのは
それ以上に不当な患者の権利の侵害のようにも思われますが、その点、どう整合されるのかなぁ……。

また、
研究者らにNHS患者の情報へのフリーアクセスを認めようという話が出ていることを考えると、
守秘義務の扱いも科学研究の国際競争での政府の野心次第かもしれないし、

つい先日こちらのエントリーで書いたばかりなのですが、
英国のNICEがコスト効率で医薬品や治療を制約しているという前提があるのだから
その中で患者が自由に選ぶ権利と言われても……。

昔、友人が言っていたことを思い出してしまった。

「ウチではね。大事なことはみんなお父さんが決めることになっているの。
でね、何が大事なことかはお母さん(つまり友人)が決めるの」