「虐待から救わなかった」と300人が行政を訴える準備

「こんな判決を下して、他の人にも同じような訴訟を起こせと
お墨付きを与えたことになりますよ」と
自治体側の弁護士が裁判官に毒づいた……という英国高等法院の判決は
去年のちょうど今頃のニュースで見ていました。

赤ん坊の頃から14歳まで両親の手ひどい虐待を受けた31歳の男性が
「里子に出さずに両親の元に戻したのは、ソーシャルワーカーの怠慢」として地方自治体を訴えたもので、

高等法院は大筋で男性の訴えを認め、
損害賠償25000ポンドの支払いを地方自治体(Doncaster)に命じた。

――ここまでが去年の報道。

昨日のTimesの記事によると、
その後自治体側が上訴していたようですが、
上訴裁判所も行政が適切に対応していれば男性は親の虐待を受けないで済んだと判断。
もとの判決は覆らず、自治体は賠償金を支払うことに。

それが2週間ほど前のことで、
これによって虐待から子どもを守る行政の責任が初めて明確化されたことに。

折りしも、英国ではBaby P事件の衝撃がまだ覚めやらず、
関係者に多くの処分が出たり、他の自治体でも児童虐待への対応が問われている最中とあって、
Baby P事件の後、保護申請は26%も増加しているところ。

Timesの調べでは
自治体が迅速に親から引き離してくれなかったために
親からひどい虐待を受けたとする人たち200人から300人が
既に訴訟を起こす準備に入っているとのこと。

一部は Official Solicitor の介入で弁護士に繋げられたケースで
弁護士が子どもの代理として訴えようとしているもの。
その他、既に成人した人たちによるものも。

Official Solicitor については
英国のKatie Thorpe のケースに関するエントリーでちょっと触れています。)



去年のこのニュースは妙に気にかかって、
介護保険情報」の連載で取り上げたのですが、
(掲載は今年2月号)

この回は大まかに
科学技術の進歩と人権で、なんともややこしい時代が到来……といった感じで
いくつかのニュースを紹介しました。

このエントリーを書くために引っ張り出してみたら、
上記のほかにも興味深い話があるので、
他に2つばかり以下に簡単に。

Kirk Dickson 35歳。殺人犯。
監獄内で知り合った女性と99年に結婚。
妻は一足先に出所して、Dicksonは09年に出所の予定。
が、その頃には妻は51歳になってしまう……と焦った2人は
妻の出所後の01年に人工授精で子どもを産む権利を求めた。
しかし英国内務省は夫婦の訴えを却下。

納得できない2人は
「結婚して家庭を築く権利」と「プライベートな家族生活を尊重する権利」を
内務省に侵害されたとしてヨーロッパ人権裁判所に提訴。

やはり、これも去年の今頃、
同裁判所の大法廷は夫婦の訴えを認めた。
認められた賠償金の総額は26000ユーロ(約430万円)。

香港で、オランダ領事館の職員が生後4ケ月で養子に迎えた韓国生まれの女の子を
7歳まで育てた後で「オランダ文化になじまなかった」として香港の福祉当局に“返却”。
ごうごうの非難を浴びている。

しかし、背景に目を向けると、もっと深刻な事態が。

近年アジアから欧米への養子縁組が急増しており、
米国だけでも海外から養子を迎える人は年間2万人を超える。
最も多いのは、1979年にスタートした一人っ子政策
公園や孤児院の前に棄てられた中国の女児が英米に養子に出されるケース。

その一方、非常に気になるのは
臓器や性的搾取、奴隷労働目的で子どもが売買されるニュースも最近よく目に付くこと。

“養子縁組”が、そうした売買の隠れ蓑に使われていることはないのか?