米でも出生前遺伝子診断の新技術で議論

金曜日のエントリー新・着床前遺伝子診断MoT:遺伝病はもちろんアルツも糖尿も癌も心臓病も弾けるぞ
英国の同様の議論を紹介したばかりですが、

米国では遺伝子チップを使った胎児に対する出生前遺伝子診断技術が
実用に供するには時期尚早との批判をよそに既に提供され始めていて、
これまでより多くの遺伝病を発見できる、
病気が分かることによって生まれてくる子どもの治療に備えることができる、
などの利点が強調されている一方で、
不確かな情報で親を振り回すことになり、
結果的に正常な胎児が中絶されてしまうリスクも含めて中絶が増える、
将来の「カンペキな子供」を求めるデザイナー・ベビーに繋がる、
正常からちょっとでも違う状態をも許容しない社会に向かっていく、などの批判が出ている。

検査は1600ドルで(保険は利きません)
奇形または知的発達遅滞を起こす150の遺伝病と
その他の病気、行動障害を検出することができる、とのこと。

Fresh Hopes and Concerns As Fetal DNA Tests Advance
The Washington Post, October 26, 2008


結果の正確さがいまだに確認されていないことや倫理問題などから
広く使うのは時期尚早との指摘を受けながら
すでにこの検査を一般に提供しているのは
Texas州HoustonのBaylor College of Medicine と
Washington州 Spokane のSignature Genomic Laboratories。

そして、その2つに続いて静かに検査を始めているのがGeorgia州AtlantaのEmory 大学。

前者2つについて、なるほど、いかにもなぁ……と思うのは
Texas州といえば無益な治療法があって
去年 Emilio Gonzales 君の事件があったところ。

Washington州といえば言わずと知れたGates財団のお膝元で
世界中の保険・医療を費用対効果計算で再点検しようというWashington大学のIHMEならずとも
第2のシリコンバレーとなりつつあるSeattleに
“科学とテクノ万歳”のトランスヒューマニスティックな文化の素地があることは
容易に想像がつきます。
それを象徴するかのようなAshley事件の舞台もSeattleでした。
Oregonに続いて自殺幇助を合法化しようとの動きが活発化しているのもWashington州。

特にIHMEの価値観
社会的な要因を全くカウントせずに病気と障害を社会の負担と見なすものです。

未だに正確な結果が出せるわけではないし、
ある程度の病気の予測ができるとしても、それはあくまでも可能性に過ぎないというのに
それを承知で早々と検査を提供するということは
仮に不確かな情報で正常な胎児が堕胎されることになったとしても、
それでもなお遺伝病や障害を持った子どもが生まれないことのメリットの方が大きいと
“いかにも”なリスク対利益の計算があるのではないでしょうか。

それならば、それは、やはり
正常から外れる状態を許容しない社会に繋がり、

生まれてくる子どもだけではなく、いずれは
人生途上で病気になったり障害を負ってしまう人に向ける目も
ネガティブなものにしていくのではないでしょうか。

Baylor大の関係者は次のように言っています。

この検査で分かる障害の中には負担の大きなものがあります。
一生介護が必要となるような障害です。
一生歩くこともしゃべることも自分で食べることも出来ないまま。
そういう子どもが家族に与える影響は大きいですよ。
「前もって教えてもらいたかった。親の人生が台無しになったじゃないか」と
患者さんに言われますよ。
そういうことがあるから女性は知りたいんですよ。

生の始まりのところでの、この感覚が
そのまま生の終わりにも当てはめられれば
先月、英国の哲学者が言ったように
「家族や社会に迷惑をかける認知症などの要介護状態になった人には死ぬ義務がある
という話になるのではないでしょうか。