「社会保障切り捨ての真の目的は連帯崩し」とチョムスキー

図書館の新刊コーナーで見かけた時に
「わ、懐かしい名前だ……」というだけで暇に任せて借りてきた本。


語学を齧った若い頃に名前だけはよく見かけたというだけで、
当時もその後も著作を読んだことなどなかったので、
読み始めたらチンプンカンプンで、ただ無知を思い知らされるのみ。
ほとんど理解できなかったのですが、

2004年のインタビュー内容をまとめた本書の中で、
社会保障制度は財政的に破綻するから、それを避けるには民営化しかない」という主張に
チョムスキー氏が反駁している箇所だけは、
なんとかついていくことが出来た。(P.140~144)

財政的に破綻するというのがそもそもウソだという氏の根拠は、
・ 高額所得層は事実上、社会保障目的税を免税されているので、それを是正すればよい。
・ ベビー・ブーマーの成長期よりも米国は豊かになっているのだから、
彼らの高齢期を支えられないはずはない。

それなのに
社会保障が財政を圧迫しているかのように過剰なイデオロギー解釈が横行するのは、
社会保障の根幹にある原則論は連帯と相互扶助であり、
それは労働者運動をはじめとする大衆の組織的社会活動が築いてきたものであって
体制を揺るがしかねない力を秘めているから。

社会保障に対する攻撃の真意は
連帯と相互扶助の精神を崩壊させて、
体制側が支配しやすいように国民をバラバラにすることにある。

そもそも社会保障制度に対する危機感を煽って
どういう方向に制度誘導がされているかというと、
運営コストが低く効率性のよい政府による社会保障制度から
将来に備えて個人の自己責任で投資しましょうという方向へであって、
それで利益を得ているのは巨大企業や金融業界である。

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チョムスキー氏は医療費の膨張についても語っていて(P.186-193)、
その要因は製薬会社の強大な力と民営化された医療制度の運営コストなのだけれども、
社会保障ほど医療が問題にならないのはなぜかというと
米国の医療は富に応じて分配されているので
富裕層にとって米国の医療にはなんら問題がないから。
保険会社もHMOも製薬会社も絶好調なわけだし。

(ちなみに、Microsoftが医療データ管理ソフトで提携した相手である
Kaiser PermanenteがこのHMOの最大手らしいです。)

そこで氏は知的なマスメディア(NYTimesとかWashington Postを指しているようです)が
コトの本質を見抜いた報道をすることが大事だといっているのですが、

このあたりを読んで、ふっと頭が飛んだのは、
日本のメディア、この頃ヘンだよなぁ……ということ。

障害者自立支援法案が審議されていた頃の
郵政民営化と刺客一辺倒のバカバカしい狂騒報道もそうだったし、
今頃になってせっせとたたいている後期高齢者医療制度だって
法律が出来た2年前に知らなかったわけでもあるまいに大して報道しなかった。
その後も貧乏な人やマイノリティが苦しんでいるというニュースは
地味なネットのニュースサイトでわずかに流れるだけで、
大手メディアが大きく取り上げることはないし。

そういえば、障害者自立支援法や高齢者医療制度が決まった当時
イラクで誘拐された若者を「自己責任」の一言で見捨てようと
日本政府は国民を扇動したのだったけど、

あれも、
その後の規制緩和構造改革で国民を使い捨て・踏み付けにしやすいように
連帯の芽を摘み、相互扶助の精神を崩壊するべく画策されてのことだった……?