A事件に「小児乳房切除の倫理」Dr. Sobsey再び

先日、カナダの教育心理学Sobsey氏がAshley事件での乳房芽の切除について
実は乳房切除そのものであると指摘しましたが、

同じブログで今度は
小児の乳房切除についての文献を当たって
知的障害を理由にAshleyに行われた乳房切除は倫理的に正当化できないと結論付けています。

Ethics of Pediatric Mastectomy
By Dick Sobsey (dsobsey)
What sorts of people, July 20, 2008

Sobsey氏が提示する疑問は以下の2点。

女性にはすべからく乳癌のリスクがあるし
乳がんの遺伝子については解明もされてきているが、
それならば

1)非常にリアルで大きな病気のリスクをコントロールする目的で
 健康で定型発達を遂げている6歳児の親に
 子どもの乳房切除を求めることが許されるだろうか。

こちらについては明らかに許されないだろう、とします。

2)倫理学はこの問題を検討してみたことがあるだろうか。

この点についての議論が非常に面白いのですが、
the American Journal of Bioethics と The Journal of Medical Ethics(UK)に
この問題を取り上げた論文がある、

Ashleyケースに関った医師らは前例がないために指針もないと繰り返し強調しているのだから、
当然のこととして、これらの文献を探したはずだし、探したならば知っていたはずだ」と。

そのうち、ネットで全文が読めるものとして、
Prophylactic interventions on children: balancing human rights with public health
F M Hodges, J S Svoboda and R S Van Howe
Journal of Medical Ethics (UK), Volume 28 Number 1: Pages 10-16, February 2002

この論文の結論は非常に明快で、
Prophylactic mastectomy is problematic and has a number of grey areas. The best one can say is that it may be acceptable for competent adults who have given informed consent, free of any force, coercion, manipulation, or undue influence from any source. Prophylactic mastectomy cannot be sanctioned on infants or children who have not yet attained legal competence or the age of majority.

ざっとまとめると、
予防的乳房切除には問題が多く、まだ灰色の部分が大きい。
せいぜいのところ、周囲から如何なる影響も受けない完全な自由意志により
インフォームド・コンセントを出せる意思決定能力のある大人にだけ認められるとしても、
法的な意思決定の能力を持たない子どもには認められない。

障害のない子どもでこうした結論が出るのならば、
国連子どもの権利条約によって他の子どもたちと同じ権利を保障される障害児に許されるはずもなかろう。
米国政府は同条約を批准していないが、米国小児科学会が批准している以上、
米国の医療において障害児の権利は守られるべきである。

Sobsey氏に大きな拍手を。
Spitzibara個人的には、スタンディング・オベーションを。