ワクチンと自閉症 (自閉症関連重要事項年表)

6日(日)の朝日新聞にあった「アメリカの毒を食らう人たち」の書評に、
自閉症の原因はワクチンだと断定している箇所があり、
「え? それって、実証されていないんでは……?」と、びっくりして
思わず眉にツバをつけた。

このところ書こう、書きたいと思いながら、
またも、なんとも微妙なトーンの記事なので、
この1週間ずっと机の上に置いては眺め暮らしている
2本立ての自閉症関連の記事があって、
それが実はワクチンがらみの内容。

その2本のうち、いわば“オマケ”の方の記事が
自閉症の歴史 重要事項年表」という簡単な年表になっていて、
その中にワクチンとの関連も触れられているので、
まず先にこちらの方を。

Some Key Dates in Autism History
The Washington Post, July 1, 2008


この年表によると、1943年に自閉症が特定されて以来、
統合失調症の1種だと考えられたり(1967)
冷たい母親が原因だとされたり(1971)を経て
DSM-Ⅲで統合失調症とは異なる発達障害として分類され(1980)
アスペルガー症候群が進行性の発達障害としてDSM-Ⅳに公式に追加される(1994)中、

問題のワクチンについては

2000年
政府の懸念を受けてワクチンのメーカーが
子どものワクチンから水銀を含んだ防腐剤thimerosalを除去。
この防腐剤が自閉症と関連しているとの不安が一般に広まった。

2001年
自閉症の子どもはNIHの発表で250人に1人。

2004年
米国医学院がthimerosalと自閉症との関連には、なんら確かなエビデンスはないと発表。

2007年
CDCの報告で自閉症の子どもは150人に1人。
病気そのものが増えているのではなく、
発見率の向上、診断基準の拡大、一般に周知されてきたことによる
というのが専門家の見解。

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ところで2006年のシアトル子ども病院生命倫理カンファレンスのテーマは
Ethical Issues Related to Vaccination of Children
子どもへのワクチン接種に関する倫理問題

Johns Hopkins病院ワクチン安全研究所のNeal A. Halsey医師が
Thimerosol and Vaccine Risks(thimerosolとワクチンのリスク)
と題する講演を行っています。

Halsey講演の資料はこちら

またこのカンファの5ヵ月後にAshley事件で一躍有名になるDiekema医師の講演は
The Case of Vaccine Refusal:Parent Conviction, Child Best-interests, and Community Good
(ワクチン拒否ケース:親の信念、子どもの最善の利益、そしてコミュニティの益)

Diekema講演の資料はこちら

その他2006年カンファレンスの詳細はこちら


このカンファレンスに関するSeattle Timesの記事として、
More parents resisting vaccines for kids
The Seattle Times, July 16, 2006

thimerosalと自閉症の関連が立証されておらず
実際のワクチンから既に除去されているにもかかわらず、
やはり自閉症との関連を懸念する親がいることが
子どものワクチン接種を拒否する親が増えている理由の1つとして触れられており、
いまだに大きな影響が残っていることが伺われます。


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このエントリーのテーマには直接関係ありませんが、

2005年から始まったシアトル子ども病院生命倫理カンファレンスが
第2回目の2006年にワクチンの問題をテーマに取り上げて
アフリカをはじめとする発展途上国でのワクチン問題まで論じているわけです。

普通に考えたら、ワクチンの問題というのは
第2回目という若い回に急いで取り上げるべき大きな生命倫理上の問題だとは思えませんが、

ゲイツ財団が世界にワクチンを広めていく運動に力を入れていること、
ゲイツ財団とワシントン大学・シアトル子ども病院との近しい関係を考えると
これもまた大変興味深い事実ではあります。

ゲイツ財団とワシントン大学との関係については
ゲイツ財団とUW・IHME」の書庫を参照してください。)