ヘンだよ、脳研究のプライオリティ

また、この手のニュース。
また、この手のニュースにすっかり御馴染みの「パーキンソンもアルツも治せる!」
ここでは、それに「たぶん精神病も!」まで、さりげなくくっついている。

簡単に言えば
サルの脳をコンピューターと繋いだらロボットアームがサルの思い通りに動いた、として
ピッツバーグ大学医学部の研究者がその精密度の向上に胸を張り、
脳とコンピューターのインターフェイスはバラ色の未来かも~! という話。

よくよく読むと、例によって
あくまでも「かも~」という程度の話なのですが。



で、さらに、よくよく読むと、
「我々は精度を上げましたよ」と胸を張る主任研究者が言っていることの順番がヘン。
しゃべっている順番ではなくて、彼の言葉に伺われるコトの優先順位が、
まぁ、ホンネが露呈しているのだろうけれども、ものすごく、ヘン。

この研究はやがては脊損や四肢切断患者用の人造腕の開発に役に立つ。
     ↓
とりあえずの目標は、マヒで全く感覚のない人に人造の用具を作ること。
     ↓
最終的な目標は脳の複雑さをより良く理解すること。
     ↓
脳の理解が進めば、パーキンソンや麻痺などの脳障害を治療することができるようになる、
  最終的にはアルツハイマーも、たぶん精神病ですら治療が可能になるだろう。

誤解しては多分いけないと思うのですが、①と②で言われていることは、
人造腕の話というよりも実は脳とコンピューターのインターフェイスのことで、つまり脳の外科手術の話。
それが、なんで③よりも前にくることができるのか。
ここのところが私にはどうしても理解できない。

じゃぁ、脊損と四肢切断の患者は脳を理解するための実験資材なのか?

「思い通りに動かせる手を作ってあげよう」と脳に手を加えられる患者のリスクについて、
この研究者が一体どういう姿勢でいるか、この順番に如実に現われているのでは?

しかも興味深いことに、この実験結果を評してある病院の教授が言っているのは
「この研究は脊損や四肢切断の患者が人造四肢を自分の脳で使いこなすことのできる日を
 SFの領域から科学の事実へと近づけた」

──ということは、
②ですら、まだまだ科学的な事実よりもSFの領域に近い話というわけですね。

さらに③から④の間にどれほどの距離があるかと想像してみたら、
先端テクノロジーのニュースに必ず出てくる「パーキンソンもアルツも治せる!」って、
巨額のお金を費やし、リスクも倫理的な問題も無視して実験を推し進めるための
免罪符に使われているだけではないのでしょうか。

無責任に病気をあげつらっては今にも治せるようになるかのごとく言いなして、
患者や家族に偽りの夢を煽るのもいいかげんにしてもらいたい……という気がする。

           ――――――

上記リンクのBBC記事からは実験の映像が見られます。
言語は無関係な映像なので、ぜひクリックしてみてもらいたいのですが、

これ見ていると、私はじんわりと心の底から悲しくなった。

この実験にはどれだけ巨額の資金が投入されているのだろう……。
そして、今後も投入され続けるのだろう……。

まともな医療を受けることができない無保険者が4700万人もいて、
保険がないために基本的な医療すら受けることができない子どもが10人に1人、
貧しい患者は病院が車に乗せて貧民街の路上に捨て去っていくような国で、
この実験が進められているということ──。

それって、どこか、おかしくないですか?

去年、メディケイドの対象にはならないものの医療保険は買えない層を支援する
「児童の医療保険プログラム」(S-chip。97年創設)制度が期限を迎え、
それを期に対象拡大を望む声が多くの州知事らから上がりました。
しかしブッシュ大統領はそれらの声をはねつけ、むしろS-chip予算をカット。
それよりも税金で優遇してやるから民間の医療保険を買えよ、といってね。

そういうことを考えながら、この実験映像を見ると、サルの痛々しい姿と寂しげな目が
世界中のいたるところで圧倒的に強い力を持つ大人たちに抵抗する術もないままに
踏みつけにされている非力な子どもたちの姿に重なって、たまらなく悲しい。