代理母と付き合い続ける依頼者一家

「いのちの贈り物を分かち合う:
 “試験管ベビー”のJamie Thompsonは2重に恵まれている: 
 彼女を愛する両親と優しい代理母がいて」
というタイトルのWashington Postの記事を。

代理母が依頼者の子どもを出産したのが偶然に彼女自身の誕生日だったから、
それ以後の14年間、娘Jamieの誕生パーティを代理母と彼女の子どもたちと
一緒に祝っているという依頼者一家の話で、

代理母はベビーシッターをしたり、卒業式など学校行事に参加したりと
産んだ子どもの成長過程にも直接関わって本人といい関係を築いているし、
両家の子どもたちはみんな仲良しで何の不自然さもなくお付き合い……という
「これまでの社会が未経験で、だから名付けようもない」関係性をとりあげた記事。

代理出産でトラブルが起きたケースばかりを
映画もメディアもステレオタイプに取り上げるのが不満だとして
代理母のKim Kovacic さん(49)と依頼者で生物学上の母Carol Van Cleefさん(52)とが
そのアンチ・テーゼとして自分たちの体験を語ったもの。

「恥なんて感じていません。だって代理出産
自分で思い描く通りの家族を持てるチャンスを与えてくれるんですから」
というのはVan Cleefさん。
(この取材を提案したのも、おそらく彼女の方でしょう。)

Sharing the Gift of Life
WP, May 4, 2008

Van Cleefさんは最初の子の出産で子宮を失っており、
その際に「もう2人ほしい」と決めていたといいます。
Kovacic さん自身は3人の子の母親で、代理出産はVan Cleefさんの娘Jamieが2人目。

最初の代理出産は1990年、ヴァージニア州で行われた代理出産のうち最も早いうちの1例。
Maryland州 のエージェンシーを通じて10,000ドルで契約。
2例目のVan Cleef夫妻とは同じくMaryland州のリクルーターからの連絡で知り合い、
今度の契約金額は15,000ドル。

この2例の背景には
州によって法律が異なる米国ならではの複雑な事情がいろいろ絡んでおり、

体外受精させた夫妻の受精卵でKovacicさんが妊娠した時点では
契約による代理出産は10,000ドルの罰金と禁固1年に当たる違法行為だったのですが、
Jamieが生まれる数週間前に(94年)
代理母が結婚していることと夫婦の遺伝子上の子どもであることを条件に合法化されたとのこと。
(ということは、記事では触れられていませんが、
 Kovacicさんの最初の代理出産は違法行為だったということになる?)

現在でもなおヴァージニア州では
エージェンシーが代理母リクルートすることが禁じられているので
上記のように介在するのは隣のMaryland州のエージェンシー。

また赤ん坊の売買を防ぐために、
代理母へは補足的な生活費の支払いしか認められていない、とも。

Kovacicさんがいかに
「誰かに贈り物を上げたい、相手が望むものをあげられるというのが嬉しい」と力説し、
「お金をもらうことには罪悪感がある。もらわずにできたらもっといいのだけど」と言おうと、
最初の代理出産時には当時の夫の店の経営が悪化していて「そのお金で助かった」とも、
代理出産は、ずっとやっている小児科医院での仕事(内容は不明)と同じ
「パートの仕事」と考えていたとも語っているし、

Jamieの妊娠中には
万が一Van Cleef夫妻の気持ちが途中で変わった場合に備えて、
中西部の不妊の夫婦と話をつけていたというのだから
(これも書いてありませんが、エージェンシーにそういうシステムがあるのでは?)
それは実質的には赤ん坊の売買に非常に近いという感じも……。

一方、Carol Van Cleefさんは自称「大手法律事務所のA 型(どういう意味か?)パートナー」。
「これ以上に違うことはないというほど異なっている」という記事の形容は
決して2人の外見の違いだけを指したものではないでしょう。

夫の話がほとんど出てこない「出産を巡る2人の女性の物語」という構成ですが、
よく記事を読んでみるとKovacicさんの方は最初の代理出産の後に離婚したのでは? とも思われ、

お金のある夫婦が「思い描く通りの家族を持つ」ために
お金を必要とする女性が「パートタイムの仕事として」代理で出産してあげる図──。

私にはどうしても売春と同じに思えてしまう。