“過剰な”終末期医療は”不正請求”?

「無益な治療」概念を一貫して批判し続けているWesley Smithのブログ
Secondhand Smoke: Your 24/7 Bioethics Seminarによると、

メディケアでの過剰な終末期医療は
現場職員にチクらせて不正請求扱いしてはどうか、
……との声が医療法の専門家から出てきているとのこと。

といっても、メンフィス大学の医療・保健分野を専門とする法学者が
自分のブログにプライベートに書いていることなのですが、

メディケアにも「コスト対利益」の分析がもっと導入されるべきであり、
メディケアにおける過剰な終末期医療を抑制するためには
不正請求を禁じた法律が適用できるのではないか、
現場の看護師などが過剰な終末期医療を報告する、
検察が摘発する……といったようなシステムで……てな話。

原文を覗いてみたのですが、
そんなに長くない記事の中に、やたらと
too much EOL care (過剰な終末期ケア)、
too much inappropriate care (過剰な不適切ケア)という表現が頻発しています。

こういう人たちは、なるほど、こういう思考回路をたどるのだとすれば、
現実の施策を巡っても、そういう声が出てくるのも時間の問題なのかもしれない。

Smithはこれに対して、
何でもかんでも「自己選択」という言葉を隠れ蓑に生命倫理の議論が進められているが、
これらはみんな実際には「自己選択」の話ではなく、実は
「ある一定の人たちには死んでもらって資源の無駄遣いをやめてもらおう」という話に過ぎない、
病院職員をお互いにチクらせ合うような施策は医療への信頼を失わせるし、
そもそも資源が限られている時代だからこそ、
生命倫理学者が治療を受けるべき人間の線引きをして医療差別が生まれているじゃないか、と。


問題のメンフィス大学教授のブログ記事は以下。


        ―――――     ―――――

この話、現在、日本の後期高齢者医療制度で問題になっている
終末期医療について患者の“自己選択”を文書化したら
診療報酬に加算があるという話と重なってしまった。

それから医療や介護保険の制度改正のたびに耳にする「適正化」という言葉にも。

あの「適正化」って、表向きは極端な不正を捉えて、その防止を謳って言われることだけど、
実はそれに乗じて too much inappropriate care の抑制を推し進めてしまおうということであり、
じゃぁ、何が「不適切な」ケアなのかという話の部分には
コストパフォーマンス分析と効率化の一方的な押し付けの気配が色濃く漂っているような……。


終末期医療のコストについて日本での議論をまとめてくださっているブログがありましたので、
以下にTBさせていただきました。