性転換した男性が妊娠、7月に出産予定

なんでもありの世の中でついにこういうことも起こるか……。

Thomas Beatie氏(34)は、
女性として生まれたけれども性転換手術を受けて男性になったという経歴の持ち主。

その後結婚した相手の女性が数年前に子宮を摘出したので
それでは性転換手術の際に子宮も卵巣も残してあるから自分の方が子どもを産もうと
性転換手術以来受け続けている男性ホルモンの注射をやめ、
ドナー提供の精子を購入して妊娠。

さすがに医師らには断られたので、
home insemination……その購入した精子を自分で注入し受精させたということでしょうか。

1度目は三つ子の子宮外妊娠になって失敗、
2度目で成功して7月に女の子が生まれる予定。

本人の言によると、
不妊手術は性転換の条件になっていなかったので、
 胸の手術と男性ホルモンの補充だけを受けることにして
 生殖の権利は残しました。

 血の繋がった子どもが欲しいというのは
 男としての望みとか女としての望みということではなく
 人としての望みですから」



ニュースにもビックリしますが、
もっとびっくりするのは記事に寄せられたコメントの中に
「家族の選択なのだから外野が口を出すことではない」という意見が思いがけず多いこと。

(この辺りは“Ashley療法”に対するコメントと同じ傾向で、
 このような個人の選択権意識がアメリカでこれほど広がっているということなのか、
 インターネットでコメントを入れるタイプの人に
 そういう意識の人の割合が高いということなのか?)

いや、しかし……身体機能的に技術的に可能だから
なんでもかんでも個人の選択でやってもいいことにはならないでしょう。

法律的には男性なのだから
レズビアンカップルと区別して考えなければならないのだろうとは思うのですが、
法律がそもそもこんなケースは想定していないのだろうとも思うし。

妊娠というのはとても濃密な体験なのだけれど
「産まれてくれば自分が父親で妻が母親」だという本人の言葉のように
人間の心が単純に割り切れるものなのかなぁ……。

(「男性が妊娠した」というよりも、
 たまたま妊娠機能があった!夫が妻に代わって「代理妊娠した」という理解が正しいのか?)

生理的に考えても、
男性ホルモンを打ち続けて身体に男だと言い聞かせ続けてきたのを
ホルモンを中止して今度は身体に突然女性の機能を果たせと要求し、
子どもが生まれたらまた男性ホルモンを投与して……って、

身体に無理を強いるのは間違いないし、
ずっと女性の生理を繰り返してきた体とは別の話なのだから、
お腹の子どもへの影響だって全く未知数ですよね。


心底仰天したのは、
ジェンダーの垣根をなくす快挙」とか
「男女差をなくすことは何であれ天晴」いうトーンで拍手を送る意見もあること。

いや、しかし……この人は女性の身体機能を残していたから産めるのであって、
女性の産む性としての負担をこれで男性と分かち合うことになるとか
それでジェンダーの垣根が越えられるとか
男女の差がなくなるということになるのかどうか??

それとも、ジェンダー・フリーだと拍手を送る人が言っているのは
もしも今後、例えば子宮を移植して男性が妊娠することも技術的に可能になるとしたら
夫婦のうち男でも女でも好きなほうが妊娠・出産を担う選択もOKにしようということ?

それをいえば、
夫も妻も社会生活を妊娠なんかで中断させるのはイヤだけれども
血の繋がった子どもは欲しいという「人間としての望み」だけはある場合に、
お金があれば代理母を雇って体外受精で生んでもらえば
夫婦はどちらも妊娠・出産の不自由や身体的な負担からは逃れられて
なおかつ遺伝子的には夫婦の子どもを持てるわけですよね。


さらに、もっと技術が進んで生殖そのものが
妊娠・出産という女性の身体にも社会生活にも負担をかけるプロセスを経ないものへと
向かっていけば(もうBrave New Worldそのものですが)、
それこそ男女の差はなくなるということなのかしらん?

じゃぁ、男であるとか女であるとかってどういうことなのか、とか
親になるというのはどういうことか、とか
いろいろ考えていくと頭の中が混沌として訳が分からなくなってくるのですが、

とりあえず、この人の場合に抱くのは
とても素朴に「でも、あなたは男になることを選んだのではなかったのか」という疑問。

男であるとか女であるということは
仮に選べるとしても、
何度もその時々の都合で選びなおしたり
部分的に保留にして選べるという種類の問題とは
やはり違うんじゃないでしょうか?

【追記】
もともとの出典はゲイの雑誌とのことなのですが、
この人、どういう意図でそういうメディアにわざわざ自分の妊娠裸像を公表したんだろう?