D医師「施設内審査委員会が承認した」と大ボラ

これまで見落としていた去年3月の資料を新たに発見したところ、
Diekema医師のとんでもない大ウソが出てきました。
これまでで最も悪質なウソの1つでしょう。

なにしろ、Ashleyのケースを検討・承認したのが病院倫理委員会ではなく
施設内審査委員会で承認したということになっているのです。

しかもそんな大ウソをついているのが
アメリカ医師会新聞でのインタビューだというのだから呆れます。

Physician-ethicist explains “Ashley treatment” decision
By Kevin B. O’Reilly, AMNews staff,
AMNews, March 12, 2007

定期購読者でなければサイトに掲載された記事冒頭の一部しか読めないので
Diekema医師がインタビューで何を語っているかは具体的にはわからないのですが、
以下のように、記事の副題そのものがウソなのです。

The chair of the IRB that approved the controversial treatment of a child with severe disabilities offers insight into the dilemma.

論議を呼んでいる重症障害児の治療を承認した施設内審査委員会の委員長が
そのジレンマを洞察する。

さらに冒頭部分で記事はDiekema医師を紹介して以下のように書いています。
He is ……and chair of the Children’s Hospital institutional review board that handled the case.

Diekema医師は……であり、そして、このケースを扱った施設内審査委員会の委員長である。

確かにDiekeme医師はシアトル子ども病院の施設内審査委員会の委員長です。
しかし、Ashleyケースを扱ったのは施設内審査委員会ではなく倫理委員会でした。

他児への適用を巡る医師発言の変遷 1のエントリーでも触れましたが、
施設内審査委員会と病院内倫理委員会は別物どころか、えらい違いなのです。

施設内審査委員会は法的に設置が義務付けられた機関で
連邦政府管轄の医学研究・医療施設での臨床実験の対象となる人の人権保護や倫理上の審査を含む
治験実施要綱の全体的審査を行う機関。

それに対して病院内倫理委員会は日常の医療の中で出てくる倫理問題を扱いますが
その設置は奨励されているのみで、
実施状況は活動の質・内容もばらついています。

つまり、施設内審査委員会の承認の方が倫理委よりもはるかに権威があるわけで、
だからこそDiekeme医師は医師会新聞でのインタビューを受けるに当たって、
このようなウソをついたのではないでしょうか。

Kevin B. O’Reillyという記者は
この記事よりも前にも2月5日付でAshleyケースについて記事を書いており、


その記事では「多職種による病院倫理委員会が治療を承認した」と正しく書いています。
それが一ヵ月後、3月のDiekema医師のインタビュー記事では
「施設内審査委員会が承認した」と変わっているのですから、
インタビューを受けたDiekema医師自身がそう語ったと考えてもいいのではないでしょうか。
また自分が受けたインタビューですから、
仮に記者の間違いだったとしてもDiekema医師には訂正の機会があったはず。
施設内審査委員会の委員長を務める医師が
こんな重大な間違いに気づかないはずはないでしょう。

しかも上記「他児への適用を巡る医師発言の変遷 1、2」の2つのエントリーで詳述したように、
Diekema医師自身が2006年のAshley論文においては、
このような成長抑制療法については
今後の「恣意的な適用を防ぐために」
倫理委だけではなく施設内審査委員会の審査下にある研究の文脈で行われるべきだと、
念を押して書いていました。

医師を読者対象にした新聞のインタビューを受けるに当たって
施設内審査委員会が承認したのだというウソをついたという事実は、

Diekema医師の意識の中に、
本来なら施設内審査委員会での検討を要するくらいに倫理的に問題の大きなケースだ
との認識があった何よりの証拠ではないでしょうか。