ミュウさんの動物識別能力

例えばタテヨコにいろんな動物の絵がずらっと並んだ絵本のページを開いて、
ミュウさんに「犬はどれ?」と聞いてみるとします。

すると、
彼女の指はかなりウロウロした後で
犬または猫あたりを差すこともたまにはあるけど、
キリンやらクマの上を彷徨い続けることも多く、

そこで「ゾウは?」とか「ヘビは?」などと聞くと
人差し指はその日その時の気分によってデタラメに任意のものを指す。
時には動物なんかいない枠外を平然と指差したりもする。

ではミュウさんには動物を識別する知能がないのか……といえば、

しかし例えば
何世代も前のキャラクターたちが登場する「おかあさんといっしょ」の絵本を開き、
じゃじゃまるは?」と聞けば、
口が大きくて、いかにも悪ガキふうな山猫のうえに
ミュウさんの指は即座にぴしっと止まる。

その次の世代のキャラクターたちの「おかあさんといっしょ」絵本で、
「ミドは?」と聞いたらば、
ミドとファドという2匹の犬は男女の一卵性双生児であるにもかかわらず、
ミュウさんはパンツをはいたファドではなく、
赤いスカートのミドを迷わずに指差す。

これは要するに、
鼻が長くて灰色の大きな生き物の名前が
「ぞう」であろうと「けしごむ」であろうと「さっぽろびーる」であろうと
ミュウさんには全然影響しないし、
ミュウさんはまったく困らないからであって、

だから「ゾウは?」と聞かれても
「知るか、そんなの」と指がテキトーにお付き合いしてあげているだけ。
きっとね。

ミュウさんに動物を識別する能力や
ものには名前があることを知りそれを判別する「能力」がないのではなく、

自分には興味も関係もないものの名前など知る「必要」がないのでは?

ところが
動物園かジャングルにしかいない動物の絵を正しく指差せなかったり、
マルや四角や三角が判別できなかったら、
「ものの識別能力がない」、「知能が低い」と判断されてしまう──。

ミュウさんがもしかしたら
15年も前の「じゃじゃまる」を
今なおピシッと指差してみせることができる、

ミュウさんの目はとても能弁に
いろんなことを語ることができる、

目だけでもって、誰かを徹底的にバカにしてみせることなんか
もう天才的にうまい、

それでも「どうせ何も分からない重症児」しか見ようとしないから、
ミュウさんの指や目が語っていることにまるで気がつかない人が
世の中には沢山いることも、ちゃんと分かっている、

そしてアナタもそういう人だということを
彼女の眼力は一瞬にして見抜いている……

なんて考えてもみないし、
本当はそれはとても大切なことなのだとも気がつかない──。

いわゆる専門家が云々する「知能」って
そんなところ、ありません?

ちょうどAshley事件で
カメラ目線ができて、
自分の好きなオペラ歌手をちゃんと聴き分けることができる少女のことを
「どうせ生涯だれとも意味のある関わりなどもてない」
「どうせ何も分からない」
などと決め付けてかかるように。