Fostらが「プライバシー法は医学研究のジャマ」

米国医師会ジャーナル(JAMA. 2007; 298(18):2164-2170)に
医療プライバシー法は疫学研究の邪魔だ、とする論文が掲載されています。

著者は次期疫学学会会長のDr.Roberta B. Ness
(Pittsburgh大学Graduate school of Public Health)。

疫学専門医へのアンケート調査を行ったところ、
患者情報へのアクセスを限定するこの法律のおかげで医学研究が阻害されて、
無駄にコストが嵩んでいる、と。

ここで問題とされている医療プライバシー法とは、
1996年に医療におけるIT化の推進とその安全な運用を促す目的でできた法律である、
医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(医療プライバシー法)
HIPAA : the U.S. Health Insurance Portability and Accountability Act

2003年に最終的なセキュリティ規制が発表され、
2005年4月から施行。

ところで、このジャーナルの同じ号には、
この論文に関連してEditorialが掲載されているのですが、

その著者が、
あのNorman Fost医師(Wisconsin大学)とRobert J. Levine医師(Yale 大学)。

Fost医師はAshley論文の執筆者Deikema医師の恩師で、
Ashleyを「シボレーのエンジンを搭載したキャデラック」に喩えるなど、
Ashley療法の擁護に大奮闘した人物。
また、その他の問題でも
スポーツでの薬物による能力強化をよしとする「ステロイドの専門家」、
さらに重症障害新生児の治療などコストがかかるばかりで無益だと「無益な治療」論を提唱しており、
考え方が全体にトランスヒューマニズムに非常に近い医師です。

そのFost医師らが上記の問題に関連して書いているのは、

この問題の根源はOffice of Human Research Protection とFDAであり、
彼らが些細な揚げ足を取ってペナルティを科すから、研究組織が萎縮して研究が滞る。
連邦当局、研究組織、認定機関、研究者と研究参加者が加わって
現制度を見直すことが必要。

Fost医師はシアトル子ども病院の生命倫理カンファレンスでも、
無益な治療をテーマにしたプレゼンにおいて、
「医療の現場で決定を行えるのは医師だけであり、
裁判所の関与など認める必要はない」といった発言を繰り返し、
“医師の裁量で決めるべきことに介入してくる裁判所”への敵意が顕わでした。

ここでも、
「些細な揚げ足を取ってペナルティを科すから……研究が滞る」
といった表現にチラついているのは
Fost医師らしい攻撃性であり、

プライバシー法によって自由な研究ができなくなったじゃないかと、
やはり“医師の裁量権を侵害するもの”は許しがたいようです。