he と she の新たな文法?

前のエントリーでJames Hughesの著書(の目次)について書いた際に、
ごく一部を読んでいて、とても不可思議な文法に気づいたのですが、

意識してか無意識にか、Hughesがチンパンジーを受ける人称代名詞は she なのです。

別に特定のチンパンジーが話題になっているわけではなく、

生命のタイプによって動物を含む生命体をランク付けし、
それぞれに与えられる権利を規定する“サイボーグ市民”たちの民主社会のルールを
解説した下りで、

Incompetentな(自己決定をすることができない)大人と子どもには
通常の権利を与えることができないと述べたのに続いて、

遺伝子的に強化されているなら別だが、
チンパンジーに通常の権利を与えても無意味だとする箇所(P.222)で

she 。

明らかに、具体的なチンパンジー個体ではなく、種としてのチンパンジーを受けた表現。



トランスヒューマニズムというのは、いろんな表向きを装ってはいるけど、

所詮は

知的レベルが高いことを鼻にかけた白人男性の我田引水的な価値観。

要はただのインテリ・レッドネックなのでは──? 

と、かねて感じてはいたのですが、

まさか人間を受けるのが he で、チンパンジーが she とは……。


      ―――――

ところが、その出来事があった翌日、

全くの偶然なのですが、
また同じ she の用法に、出くわしました。

新作ハリウッド映画「ダーウィン・アワード」の批評で、

ダーウィン賞とは実在の賞で、
「進化に不適合な遺伝子を減らした功績」でバカげた死に方をした人に与えられる賞
だと読んだので、

the Darwin AwardsのHPを覗いてみたところ、

ルールを説明するセクションで
賞の候補者を受けている代名詞が、やはり she。
もちろん特定の候補者個人を指しているのではなく。

英語の he と she は、実際の性別ではなく、
特定のグループを見下したい時に、その蔑視を表現する代名詞になりつつあるのでしょうか。


ちなみにHPの説明によると、ダーウィン賞の対象となる条件は

受賞の対象となる人は死んでいるか、少なくとも生殖不能になっていなければならない。

なぜなら、ダーウィン賞とは
自分自身の命を究極的に犠牲にすることによって
我々の遺伝子プールを守った人々を称えるもの

なのだから。