Watsonは人種差別主義者ではなく優生主義者

ワトソンの問題発言騒動を巡って、
「リベラルでも保守でもない、敢えて呼ぶなら尊厳派」を標榜する
サイト Mercator.Net に Michael Cook という人が エッセイ
There’s more to life than discovering DNA(10月19日)を書いています。

Watsonのこれまでの発言を振り返りつつ、
彼は遺伝子が全てを決定するという前提に立ち、
人間性の本質を数値で計測可能なものに貶めて、
人間を遺伝子情報を忠実に発現する機械のように捉える考え方の先鞭をつけたと批判。

例えば人間のDNAは99.4%までチンパンジーのDNAと同じだということから、
人間がチンパンジーより優れているのは0.6%だけだという結論を導き出す人がいるが、

その段で行けば、人間はIQで優劣を決められてしまうことになる。
結局Watsonの訂正発言の意図も、「肌の色に関りなくIQの低い人は遺伝的に劣っている」
という意味だ、と。

このエッセイはWatsonのトランスヒューマニズムの理想に警告を発するものとなっています。

Watsonは人種差別主義者よりももっと危険な存在である。なぜなら彼は優生主義者だから。

他はともかく、この1行。
よくぞ、言ってくれました。

          
ところで、この中に引用されているWatsonのこれまでの発言ですが、

「われわれが神を演じているという人がいますが、それに対する私の答えはこうです。
われわれが神を演じずに、いったい誰がやるというのか?」

「誰かが本当にバカだったら、私に言わせるとそれは病気ですね。
……それならその病気は取り除いてあげようと私は考える」

若い女の子をみんなきれいにすることができたら、そんなのはイヤじゃないかという人がいます。
素晴らしいと私は思いますね」

白人で、男で、頭が良くて、地位もお金もあり、それなりに健康で……
どこをとっても強者の立場に立つと、こういうふうにものが見えてくるということなのでしょうか。

それにしても、同じ匂いが漂っているような気がします。
”アシュリー療法”の擁護に登場した奇怪な人々と。

                  ―――――――

そういえば、

このエッセイで Rosalind Franklin の名前を見るまで迂闊なことに忘れていたのですが、
DNAのらせん構造に一番最初に気づいていたのは女性科学者だったのですよね。

Franklinが地道に研究を続けて撮影に成功したDNAのX線写真を盗み見たことが、
DNAの構造を解明するWatsonらの研究を完成する最後のピースになったのに、
彼らは手柄を独り占めしてしまっただけでなく、
著書でFranklinのことを無能でヒステリックな女として悪し様に書いた……。

なに、「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一)で読み齧っただけですが。