James J. Hughes その3

もう1つ、Nancy GraceとDr.Hughesのやり取りを以下に。

G:(static encephalopathyという診断名とアシュリーの状態を両親のブログから一部紹介した後に) Dr. Hughes、どういうところが彼女特有の症状なんですか?

H:(診察せずに診断はできないと述べた後に) しかしこの症例で大事なのはそういうことではありません。精神機能がどうであれ、この患者が自分の医療に関する決定に参加できる日は決してこないのです。その状態が変わることはありません。

G:でも、ドクター! そういうハンディキャップのある患者は沢山いますよ。

H:その通りです。そういう人はみんな、誰かにケアしてもらわなければならない。医療に関する決定も、誰か他の人にしてもらわなければなりません。

G:でも、だからといって子宮や乳房をとられたり、成長を抑制されなければならないんですか?

H:それによって寿命が延びるとかQOLが向上するのであれば、そうです。例えば癌のある患者だと、その種の手術に関する決定は親や介護者によって行われることはありますよ。

「医療に関する決定」と「延命とQOL向上」という言葉をキーワードに、Hughesはアシュリーに行われた医療処置とガン治療とを同列に扱い、「重い知的障害のために自分で決定できない人は、延命やQOL向上のためなら健康な臓器を摘出する代理決定をされてもやむをえない」との判断を示しています。

ここで思い出すのは、両親が相談した弁護士の見解でしょう。

WPASの調査報告書に添付された手紙の「結論」部分の冒頭、彼もまたガンの場合の子宮摘出を例に引いています。

参考になる比較としては子宮癌の例を引くことができる。現在アシュリーが癌だと診断されているとすれば、裁判所の関与なしに子宮摘出が行われることに誰からも疑問はないはずである。それならば、ワシントン州の3つの判例は以下のように解釈されるべきである。すなわち、他の差し迫った医療上の理由によって行う外科手術がその副産物として不妊手術になってしまうというに過ぎない場合には、不妊手術は許されるのである。

しかし両親がアシュリーの子宮摘出を望む主たる理由とは「生理と生理痛の回避」でした。それが子宮がんに匹敵する「差し迫った医療上の理由」に当たるのでしょうか? 

この手紙の冒頭、裁判所の命令は不要とする判断を述べた部分では弁護士は以下のようにも書いています。

その医療処置の目的が不妊手術にあるのではなく、他の医療上必要なメリット(medically necessary benefit)を得るためである以上、不妊手術について裁判所にヒアリングを求めることは不要。

ここでも「生理と生理痛の回避」のことを「医療上必要なメリット」であると、この弁護士は呼ぶのです。

そういえば、Diekema医師もシンポでアシュリーに対する医療処置は「あくまでもmedical needsがあってやったこと」だと主張していました。

「医療上の必要」、「医療上必要なメリット」、「差し迫った医療上の理由」、「延命とQOLの向上」------- これらの言葉を操ることで、3人は「生理と生理痛を回避するために健康なアシュリーから健康な子宮を摘出する」ことを、重病の治療と同列に並べるわけです。

これらはやはり、ためにする強引極まりない詭弁、初めにありきだった結論に無理やり後付けした合理化に過ぎないのではないでしょうか。気になるのはやはり、Diekema医師と弁護士はともかく、なぜHughesまでが……? ということ。

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両親と医師ら、そして擁護に登場した人たちには、ありふれた重症障害に過ぎないアシュリーの状態を実際よりも過酷で特異なものに見せたがっている傾向があります。冒頭の引用におけるGraceの質問はその点を鋭く突いているのですが、ここでもHughesははぐらかして逃げています。