徘徊追跡でアルツハイマー病患者にマイクロチップ?

7月22日のAP通信その他によると、家畜に管理追跡用に埋め込むマイクロチップの会社を親会社に持つVerichip という会社が、ID番号を記したマイクロチップを200人のアルツハイマーの患者に埋め込む実験を予定しているとのこと。Verichipは、既に世界中で7000個のマイクロチップを販売しており、その中の2000個は人間に埋め込まれています。

体内のマイクロチップで個人を認証……などというとまるでSF映画のようですが、案外にこのRFID(Radio Frequency IDentification)は、既に一般に普及し始めているようです。腕にチップを埋めておけば、事故に遭った際に意識がない状態で病院に運び込まれても、チップからスキャンしたIDで医師らがインターネット上の医療個人情報にアクセス……そうした緊急時への備えとして埋め込む人が増えているとか。他にも店側のコンピューターに口座情報を登録しておけば腕のチップをスキャンするだけで買い物ができたり、職場で高度機密のある場所へのアクセス認証のために埋め込む人も。アメリカでは2004年10月にFDAが人体への埋め込みを認可しています。

今後ターゲットになるのはアルツハイマー病の患者、軍のレンジャー部隊、性犯罪者、不法入国者などと見られていますが、マイクロチップが人体に埋められた場合には、周辺皮下組織への悪影響、チップが体内で移動する、MRI検査は受けられない(誤って受けると危険)などの影響があることをFDAも認めています。

こうした人体へのチップ埋め込み拡大の動きやアルツハイマー病の人への実験計画に反対運動が起きており、5月12日にはフロリダで「人はペットではない」、「人にチップを埋めるのは間違っている」、「Verichipは健康に危険」などと書かれたプラカードを掲げた抗議行動が行われたとのこと。人体へのマイクロチップの埋め込みに反対するウエブ・サイトAntichips.comには、以下のように書かれています。

……この(Verichipの実験)計画には深刻な倫理上の疑問が起こります。社会の最も非力なメンバーを侵襲的な医学研究に利用するのは正しいのでしょうか? 精神機能の障害のために完全なインフォームド・コンセントを与えることができない人にマイクロチップを埋めることを、この会社に許してもいいものでしょうか?

まるで犬や実験動物のように人にマイクロチップを埋めることはdehumanizingです。肉体の完全性(integrity)と尊厳(dignity)を侵害します。……(中略)……その人の完全な同意なくして他人の肉体にインプラントを挿入することは、暴力でありレイプに等しい侵害行為です。「いやだ」と言えないからといって、それは同意を与えたことと同じではありません。

アシュリー療法と問題の本質は全く同じではないでしょうか。

そして、ここでもアルツハイマー病の患者さんたちにチップを埋め込みたい人たちは、きっと「その方が患者さん自身の安全のため」だといい、「行動を制限されることが少なくなり、本人のQOLが維持向上する」、よってチップの埋め込みが「本人の最善の利益」だという論を展開するのでしょう。

Verichipのホームページで徘徊予防のRoamAlertというシステム(チップは今のところ腕時計タイプを装着しているようです)の説明を覗くと、施設入所者や入院患者を「守るため」と書かれています。また、こうしたシステムによって患者には比較的広範囲に行動の自由が保障されるとの説明も見られます。


【2010年4月2日追記】
その後、上記記事はリンク切れになっています。他に、当時の記事では
http://www.msnbc.msn.com/id/19904543/

Verichipも買収されて社名もHPも変わっています。
以前の徘徊防止システムは姿を消して、情報保護を前面に打ち出しているようです。