抗マラリア薬に重症の神経症状の副作用、ブラックボックス警告へ

副作用としてあまりにもひどい神経症状が出る
マラリア予防薬、mefloquine hydrochloride (商品名Lariam)に
やっとのことでブラックボックス警告がつけられたが、

すでにあまりに多くの兵士や平和維持部隊、ボランティアや留学生や旅行者が
生涯続く可能性すらある副作用リスクにさらされた後では遅すぎる、と
自身も手ひどい副作用を経験し、現在も悩まされている著者。

著者が経験した副作用というのが、ちょっとすさまじくて、
まるで映画かSF小説みたい。

フルブライトの奨学生だった2002年10月16日、
著者はインドのSecunderabadのアパートを
電気をつけっぱなし、ドアも開けっ放し、ノートパソコンもつけっぱなしで出た。

出た記憶は本人にはまるっきりないが
アパートのガードマンが証言しているから間違いない。

翌朝、4マイルも離れた駅で目が覚めて、自分がインドにいることも、
そもそもなぜ自分がインドに来たのかも、さっぱり分からなかった。
警官が来て、精神病院でベッドに縛り付けられ、
3日間、幻覚にうなされた、という。

Lariamの認可は1989年。以来、
健忘、幻覚、攻撃性、パラノイア、その他バランス失調、めまい、耳鳴りなどの神経症状の
副作用がごくわずかの人に出ることは明らかになっていた。

販売元のF.Hoffman LaRoche社は
副作用が出るのは1万人に1人だといっていたが、
2001年にオランダで行われたランダム二重盲検試験の結果が報告されてみると、
なんと飲んだ人の67%が一つまたは二つの副作用を経験、
6%は病院にかからなければならない重い副作用を経験していた。

例えば、1999年にジンバブエのサファリから帰ってきたオハイオ州の男性が
牛乳を取りにいった地下室で、頭にショットガンを当てて自殺。

ソマリアでは
カナダ人の兵士がソマリア人の囚人を殴り殺して自分も自殺を図った。
この兵士の部隊では週に一度Lariamを飲む日のことを
「サイコの火曜日」と呼んでいたという。

Lariamはこのブランド名ではもう売られていないし
米軍もあちこちの圧力でやっと2009年に兵士の大半に処方するのをやめたが、
まだ飲んでいる兵士もある。

2012年に16人のアフガンの民間人を殺して有罪を認めている
Robert Bales二等軍曹もこの薬を飲んでいたと弁護士は言っている。

ベイルズと事件についてはこちらに
(Lariamについては記述ありません) ↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%99%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%BA

Lariamのブランド名では売られていないとはいえ、
ジェネリックは今年上半期だけで12万通の処方箋が書かれた
米国で最も売れている抗マラリア薬の第3位。

確かにマラリア予防の効果はあるし、
妊婦でも飲めるし、週に1回飲めばいい優れものではある。
ただリスクが大きく、そのリスクの大きさがどこまでかは、いまだに把握されていない。

やっと先週、FDAは神経・精神症状の副作用があることを認め、
ブラックボックス警告を命じたが、これは少なすぎるし遅すぎる。

副作用があったら医者に見てもらえと警告されているが、
副作用に気がつくころには飲んだ人は携帯も通じないはるか遠くの国に行っているし、
そもそもLariamの副作用は、副作用を報告できる能力を奪う形でやってくる。

しかも神経症状は永続的に続くこともある。

著者自身、今なおウツ状態、パニック発作、不眠や不安症など
Lariamを飲む前には経験しなかった症状がある。

米軍の兵士や米国人旅行者らが今後
何世代にも渡って害されてしまったのでは、と軍からも懸念の声が出ている。

Science is a journey, but commerce turns it into a destination. Science works by making mistakes and building off those mistakes to make new mistakes and new discoveries. Commerce hates mistakes; mistakes involve liability. A new miracle drug is found and heralded and defended until it destroys enough lives to make it economically inconvenient to those who created it.

科学は旅の道のりである。
しかし商売が科学を目的地に変えてしまった。

科学は過ちを犯しては、それらに手を加えて
また新たな過ちと新たな発見をすることで発展する。

ところが商売は過ちを嫌う。
過ちには製造物責任が生じるからだ。

だから、新しい奇跡の薬が発見されると、先走りで宣伝されては、
もうここまで多くの人の人生を台無しにしたら、さすがに
製造元にとっても経済的にマズイな、というところまでは、
いえ安全な薬です、と言われ続ける。


副作用は目に見える傷跡を残すわけではない。
目に見える具体的な損傷を起こすわけでもない。

でも、もしもLiriamが車で、
心理・神経的な副作用が骨折のように目に見えるものだったとしたら、
何年も前に市場から引き上げられていたはずだ。

Crazy Pills
NYT, August 7, 2013


最後の引用部分を読むと、
なんかデジャヴがある。

それも決して遠い過去からのデジャヴではなく、
最近ものすごく身近なところで起こっていることの、デジャヴ……。