「英米でも深刻化する子どもの貧困」ほか書きました

英米でも深刻化する子どもの貧困
子どもの貧困が深刻だ。
ガーディアン紙は自社サイトの教師ネットワークを通じて全英591人の教師に調査を行い、その結果を6月に報じた。それによると、「朝の登校時にお腹をすかせている生徒がいる」と回答した教師は83%にものぼった。朝食を食べていない生徒のために食べ物を持っていったことがある教師が49%。昼食を買うお金を生徒にあげたことがある教師も、ほぼ5人に1人だった。55%の教師が「生徒の4分の1が十分な食事をとらずに学校に来る」「不況、失業、福祉削減で家族の経済事情が悪化している」と回答。低所得家庭の子どもたちには無料で昼食を提供する制度があるが、5人に4人の教師が、そうした子どもたちには登校時に無料の朝食も必要だと訴えた。
独自に「朝食クラブ」を実施している学校もあるが、GP(家庭医)協会、小児科学会、全国校長会は、無料の給食制度の適用となっている130万人の子どもたちに朝食も出すよう、大臣らに向けて呼び掛けている。また無料給食制度の適用条件も緩和するよう訴えている。
こうした事態を受け、世界120カ国で子どもたちへの支援活動を行ってきたチャリティ Save the Childrenが、初めて自国内での子どもたちの支援に乗り出した。“Eat, Sleep, Learn, Play! (食べて、眠って、学んで、遊ぼう!)”キャンペーンである。年間3万ポンド以下の収入で暮らす家庭では、子どもたちが温かい食事を取れず、冬用の温かい衣類もなく擦り切れた靴のまま暮らしている。年間所得17000ポンド以下の最貧困層では、子どもの8人に1人が1日1食すら食べられないことがあるという。「この国でこんなことがあってはならない」が同キャンペーンのスローガン。貧困状態で暮らす子どものいる家庭に調理器具やベッドなど生活必需品を支給するため、50万ポンドを目標に資金を募る。
またSave the Childrenでは、貧困の世代間連鎖を断ち切るべく、親子を対象にした学習支援プログラムFAST(Families and Schools Together)を行っている。同チャリティのFASTサイトのビデオによると、英国の子どもの3人に1人が基礎的な読み書き能力を身につけないまま小学校を終えるという。経済的ストレスが親の心身の状態に影響し、口論や離婚に至ったり、子どもたちに余裕をもって接することができなくなる。毎週のFASTセッションでは、親と子、教師と地域のつながりを強化し、子どもの力を伸ばすのが狙い。
米国でも18歳未満の子どもの5人に1人が貧困状態にあるという。国税調査局の9月の発表では、世帯所得の中間値がこの1年間で1.5%落ち込む一方で、最富裕層の総所得は4.9%アップ。所得分配の不平等を図るジニ係数は1.6%上昇するなど、貧富の格差も広がっている。目を引くのは、通常は富裕な地域とみなされるワシントンD.C.の郊外で貧困率が急上昇していることだ。無料で食糧を配布するボランティア組織に助けを求めてくる人たちの数は、過去4年間でほぼ倍増している。特にホームレスが急増したラウドン郡の福祉担当者は、最近では仕事も増え家も売れるようになってきたが、それが却って家賃など諸物価を上昇させて最下層には打撃となっている、と語る。
日本でも生活保護費用の増大と抑制策が問題となっているが、日本の子どもたちはどうしているのだろう。おなかをすかせてはいないか。これからの季節に向けて、みんな温かい衣類を身につけることができているだろうか。

ベンゾジアゼピン認知症リスク?
 先月号の当欄で書いた向精神薬の副作用リスクに関連して、気になるニュースがあった。
ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに発表されたフランスの研究者らの論文で、ベンゾジアゼピンの高齢者における認知症リスクが報告されている。ベンゾジアゼピン系薬剤はソラナックスデパスなどの名称で、不眠や不安の治療薬として日本でも、また世界中で広く使われている。フランスでは65歳以上人口の30%に処方されており、カナダとスペインでは20%、オーストラリアでも15%に及ぶという。
 しかし、この研究によると、65歳以上でベンゾジアゼピンを飲んでいる人は飲んだことがない人に比べて、その後の15年間に認知症を発症するリスクが50%増加した、という。著者らは結論付けるにはさらなる研究が必要としながらも、これまでも高齢者では転倒やそれによる骨折リスクなどの副作用が指摘されてもおり、今回新たに認知症リスクの懸念も出てきたことで、処方に慎重を呼び掛けている。

「世界の介護と医療の情報を読む」77
介護保険情報」2012年11月号