NYT社説「メディケア拡大拒否は貧困層の健康を損ない、救急医療コストを安全網と納税者に付け回す」

米国で貧困層や障害者への支援を打ち切る州が相次いでいる(2012/7/23)のエントリーで
17日のNYTの社説を紹介しましたが、

NYTは引き続き28日にも
メディケイド拡大を拒否する州への懸念の社説を掲載しています。


当ブログでも何度か触れたことのあるオバマ大統領による医療保険制度改革
いわゆる「オバマ・ケア」が個人に対して健康保険への加入を義務付けている点について
保守層から違憲だとして提訴されていた問題で、
6月28日に米連邦最高裁は合憲と判断。

ただし、
連邦政府が国民に保険加入を強要する権限はないが、
健康保険に加入していない国民に税を貸す権限はある」と
あくまでも増税と解釈してのもの。

また、メディケイドの対象拡大の規定で
拡大しない州に対する政府の補助金を打ち切るとした部分には撤回を求めた。



この点について、上記のNYTの社説は
「メディケイドの拡大がoptionalとなった」という書き方をしている。

このため
貧困層の多い州や現行のメディケア維持にも苦労している州は拡大しないだろう、と
米国議会予算局はこれまでの予測データを見直し、

そうなると、実際には
新法が求める拡大を全州が実施した場合に対象となるはずの人数の
3分の2しか対象にならないのではないか、と予測し、

その予測に基づいて
連邦政府は2022年までに840億ドルの補助金のコストカットとなる一方で、
2022年には無保険者が300万人も増える、と試算。

一方、
The New England Journal of Medicineに報告されたハーバード大の研究で、

既に子どものいない成人と障害のある成人でメディケイドを拡大したNY、AZ、ME3州と、
近隣4州とを比較したところ、

前者では20歳から64歳の死亡件数が年間約1500件であったのに対して、
後者では死亡率が上昇。

また、拡大によって、
費用のために受診が遅れるケースが21%減少。

社説は、

Leaving low-income people uninsured will almost certainly damage their health.

低所得者を無保険のままにしておくことは、ほぼ間違いなく彼らの健康を損なう。

と書き、以下のように結論している。

……State officials who want to save money by not expanding Medicaid will be harming their most vulnerable residents, and will most likely shift the cost of any emergency care they need to safety net institutions, taxpayers and charities.

メディケアを拡大しないことで経費削減を図る州の官僚たちは、自分の州の最も弱い住民を害し、彼らが必要とする救急医療コストのことごとくを、ほぼ間違いなく、安全網機関、納税者とチャリティに付け回すこととなるだろう。





関連エントリー
「なぜ大国アメリカで?」と医師が憤る無保険者の実態(2008/11/11)

上記の記事を別記事のショッキングな写真と一緒に再掲したものが以下。
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/54711663.html