英国王立協会が脳科学の軍事応用に警告

英国王立協会は7日、以下の報告書を刊行した。

Neuroscinence, conflict and security
The Royal Society, February 7, 2012

発展目覚ましく、ブレークスルーが相次いでいる脳科学
軍事や警察の強化に応用された場合にどういうことが起こるかを検討し、
以下の3つの結論に至ったと述べている。

• Neuroscientists have a responsibility to be aware from an early stage of their training that knowledge and technologies used for beneficial purposes can also be misused for harmful purposes.
• The development of an absolutely safe incapacitating chemical weapon is not technically feasible because of inherent variables such as the size, health and age of the target population, secondary injury and the requirement for medical aftercare.
• Countries adhering to the Chemical Weapons Convention (CWC) should address the definition and status of incapacitating chemical weapons under the CWC at the next Review Conference in 2013.
・有益な目的で利用される知識と技術には、有害な目的で濫用される可能性もあることを、脳科学者は学生の段階から知っておく責任がある。
・相手方の人数(体格?)、健康状態、年齢などの変数、二次被害、事後の医療の必要などから、相手の戦力を奪う化学兵器を絶対安全なものとして開発することは技術的に実現不可能である。
化学兵器禁止条約(CWC)の加盟(批准?)国は、2013年の見直し会議において、CWCのもとで相手型の戦力を奪う化学兵器の定義と現状を検討すべきである。

脳科学の新たな知見には、
特に脳神経損傷や障害、精神病などの治療に大きな光明をもたらす技術がある反面、
同じ技術は軍事や警察への応用も可能である。

それらは、味方のパフォーマンス強化技術と、
敵方の能力を無化するための兵器の開発の
2つの目的で応用されることになる。

報告書は特に
ニューロ・ファーマコロジー脳科学製薬学)、脳機能の画像診断技術、
脳神経インターフェースの技術の開発が
国際社会にとって、英国政府にとって、科学の世界にとって
どのような影響をもたらすかを考察した、とのこと。

(本文は上のリンクからダウンロードできるようです)

それらの具体的な応用例について
以下のGuardianの記事がいくつか書いているので、
目についたものをざっと順不同に挙げてみると、

・兵士はリクルートの際に脳スキャンや脳波検査を受ける。
(学習能力や、判断を迫られた場合に攻撃的な判断をする傾向などが分かる)

・トレーニング中には学習能力向上のための脳刺激に関する講習を受ける。

・脳と兵器のインターフェイスBMI)で、兵士の心の動きによって兵器を操る。

・捕虜をしゃべらせる、または敵を眠らせるためのデザイナー・ドラッグ。

そして、そこに、
先日SavulescuがルンルンしていたTDCSも登場する。

中東に派遣されることになっている米軍部隊の
ヴァーチャル・リアリティ訓練に使ってみたところ、
TDCSで爆弾やスナイパーなど道端に潜んでいる危険を見つける能力が向上したという。

ごくわずかの脳刺激で、
検出の正確さは2倍の速度で増したと
この実験を行った脳科学者は驚き喜びながら、

「科学者としては、自分の研究によって誰かが傷つくのは嫌ですね。
苦痛を減らしてあげたい。世界をより良い場所にしたい。それが私の望み。
ただ世の中には様々な考えをもった人がいる。
それをどうしたらいいのか私にはわからない。

もし私が研究を中止したら、助けられる人も助けられなくなる。
それに、どんな技術にも軍事応用はある」

報告書は、
このTDCSを脳スキャン技術と合体させれば
上の「人間の脳と兵器とのインターフェイスBMI)」がいずれは可能になるが、
そうなれば、視覚イメージのプロセッシングは意識よりも早いので、
攻撃のスピードと正確さが格段にアップする、として

こうしたBMI技術の軍事応用には倫理と同時に法的な問題があると指摘。

例えば、
誤射によって別人を殺したり、結婚式に爆弾を落としてしまった場合に、
その責任は、兵士の行為にあるのか、それともBMIにあるのか、など、
個人の責任とマシーンの機能との間に線引きができない。
Neuroscience could mean soldiers controlling weapons with minds
Guardian, February 7, 2012


ここで指摘されている責任の線引きの問題は、
私が英語ニュースをチェックし始めた頃から既に指摘されていた。

07年、08年ころにそういう記事を読んだ時には
こちらの頭が現実について行っていなかったから
「いつかは」の話だと思って読み過ごしたけど、

実際、もうすでに以下のような現状。

2010年10月27日の補遺
ネバダ州の放射線物質の廃棄施設周辺を周回・警戒しているのは、ロボット兵士。一見、巨大な黒いカニ? Mobile Detection Assessment Response System というそうな。年間100万ドルの経費削減になるそうな。こいつは攻撃能力を装備されているわけではなく、不審者を見つけると、警備本部に いる人間の「おらぁ、そこのオマエ、オマエだぁ。とまれ、こらぁ」などとどなる声がこの巨大カニの拡声器で響き渡る。このカニに殺傷能力を装備すること だって、もちろん可能なんだろうなぁ……などと想像しつつ、写真を見る。
http://www.guardian.co.uk/science/2010/oct/24/nasa-robots-on-patrol?CMP=EMCGT_251010&

2010年11月29日の補遺
ロボット兵士やハイテク戦闘機器が導入されるにつれ、戦争は「安全」なものになるだろう、と。
http://www.nytimes.com/2010/11/28/science/28robot.html?_r=1&nl=todaysheadlines&emc=a2

それらハイテクで戦場がどうなるかというグラフィック(DRにちょっと時間かかりますが、それなりのグラフィックで はあります)。無人戦車、無人戦闘機、無人小型潜水艦、センサーで敵兵を探知する無人ロボット兵士などなど。:確かに「安全な」戦争かもしれないけど、そ れは、出て行って闘う立場を想定した場合。テロ攻撃を受けることも含めて逆の立場を想定すれば、対応不能なほどに「危険」なものになるということなんで は? それとも、それは西側キリスト教世界のゼニとテクノロジーの力は絶対的に優位だという意識? どっちの側に立っても、「安全な」戦争が行われている ところでは戦争が安全でなかった時代と同じ破壊と殺りくが行われているという事実に対して、感覚が鈍くなっていくんだろうな。じゃぁ、「安全な」戦争は、 起こしやすい、起こりやすい戦争だということにも?
http://www.nytimes.com/interactive/2010/11/27/us/ROBOT.html?nl=todaysheadlines&emc=ab1



ちなみに、同じ報告書の内容で、もう1つ、気になるニュースがあった。

英国政府がデモが暴徒化した場合に使うべく神経ガスの開発を検討中とか。
これについても王立協会の専門家から非難の声。↓