「知的障害があるから腎臓移植ダメ」? フィラデルフィア子ども病院

フィラデルフィア子ども病院に知的障害を理由に3歳の女児の腎臓移植を拒否されたとして、
母親が顛末を書き病院に撤回を訴えたブログに2万を超える署名が集まっている。

Amelia Riveraちゃん、3歳。
染色体異常の一種、ウォルフヒルシュホーン症候群で
発達が遅れ、てんかんや知的障害もある。

腎臓移植をしなければ余命1年程度と診断されているのだけれど、
母親の話では、1月10日に移植医とソーシャル・ワーカーとの面談で、
両親はAmeliaちゃんが“精神薄弱”だから移植待機リストには載せられない、と言われた。

身内の中で適合する腎臓の生体ドナーを探すというと、
移植後に飲まなければならない薬をきちんと飲めそうにない、
また現在飲んでいる抗けいれん薬と一緒には飲めない、
移植してもいずれまた次の移植が必要となる、
などの理由で、それも薦められないという話だった。

病院側はFacebookで個別ケースについて事情は明かせないとしながらも
知的障害を理由に移植を拒否することはない、とも。

母親は
「じゃぁ、半年後から1年後に腎臓がいよいよもたなくなったら
私たちにこの子を死なせろというんですか? と聞いたら、医師は yes と言いました」。

騒ぎになって、病院側は再度、両親と移植チームとの面談を予定。


障害のある子どもたちの移植問題を研究しているスタンフォード大のDavid Magnus教授が
2009年に小児移植の専門誌に発表した報告論文によると、

小児の固形臓器移植の待機リスト登録の決定要因に神経発達遅滞(NDD)を含めるかについて
移植プログラムによってバラツキがあって一貫しておらず、

移植プログラムの33%が「含めたことがない」「ほとんどない」と答えたのに対して
43%が「常に」または「たいてい」含める、と答えている。

62%がそれを決めるのは非公式のプロセスだと報告し、
統一された明確な公式手続きがあると答えた病院はゼロだった。

また遅滞の程度についても病院によってバラついており、
14%が軽度または中等度のNDDでも、どちらかといえば待機リストに載せない要素と答え、
待機リストに載せる決断にNDDは全く無関係と答えた病院は2%だった。

Arthur Caplanによると、
医師はそれぞれの子どもの症状、QOLに関する考慮、寿命などによって
移植の対象としないという決断をしているという。

例えば植物状態にある子どもや
移植後の管理が十分にできないと思われる施設入所の場合などは
移植の対象としないことが検討される。

手術の成功率に関わる病状がカウントされるのは正当な理由だが
知的障害それ自体を候補としない理由にするのは偏見であり、

QOLに価値判断を持ちこんで
「知的障害それ自体を移植の候補者としない理由にしている移植センターがあるのは事実だが
それは偏見だと思う」とCaplan。




Ameliaちゃんの場合、知的障害そのものが理由とされたのか、
それともCaplanの言うように、その他の病状によって手術が成功すると思えないのか、
もしかしたら後者の説明がきちんと誠意を持ってされず、
両親の誤解を招いたケースの可能性もあるのかも……?


David Magnus医師といえば、私にとっては
とても温かく記憶に残っている医師です。

2007年のシアトルこども病院生命倫理カンファで
「発達に遅れのある子どもを臓器移植の候補者リストに載せるべきか?」と題して
プレゼンを行っていました ↓



そして、その中でルシール・パッカード病院が多くの倫理学者を参加させて作った、
以下の「予備的コンセンサス」を発表しています。

・親が望めば、どの子も評価・検討をしてもらえること。
・すべての決定はケース・バイ・ケース原則にて。
・評価のプロセスには、熟練した発達の専門家によるアセスメントが必ず含まれること。
・リストに挙げるかどうかの判断に発達の専門家が加わること。
・永続的に意識のない子どもは対象としない。
・軽度または中等度のNDDはそれ自体では、否定的な指標とはならない。
・「利益対負担」の判断からリストに載せない判断をする場合には、パリアティブ・ケアが必要。
・決定プロセスの透明性が必要。
・NDDの移植アウトカムについて、より良いデータが残される必要がある。
・親と医師のコンフリクト対応のため、不服申し立てが出来る機構が考えられなければならない。

このコンセンサスの作成には
CaplanもDiekemaもTruogやVeatchやRossやWilfondその他
多くの倫理学者が参加していますが

Magnusは講演の中で、特に障害児のアセスメントについて
発達の専門家のアセスメントを経なければ表面的には分からないと
強調していたのが印象的でした。

また、Fostらとのパネルでも、
障害児なんぞにかけるコストは無駄と、切り捨て姿勢を露骨にするFostに
Magnus一人が何度も反論していたのが、とても心に残りました ↓