拙著「アシュリー事件」のホルモン投与期間虚偽報告疑惑について

P.78のホルモン投与期間の虚偽報告疑惑のくだりについて、

ガンサー&ディクマ論文が受理されたのが2006年3月2日であることから、
「1年ちょっと」は虚偽報告とはいえない可能性があるのでは、とのご指摘をいただきました。

実は、この点について書いた2007年6月20日のエントリー
論文のウソ 追加のコメントでも同じ指摘をいただいています。

本書では
「発表時期のズレがわずか2カ月足らずであることから」のみに触れているのですが
論文の受理が06年3月であったとしても、以下の4点で、
依然として疑惑が残ると私は考えています。

① 受理されて以降、掲載までの間に訂正が可能である以上、
常識的に考えれば刊行段階での期間に訂正して発表するものなのでは?

それとも医学論文の場合、論文提出段階の期間が記されていると理解するのが
通例なのでしょうか。どなたかご教示をお願いいたします。

② この個所は「1年ちょっと」のみでなく、
それに続いて「成長は終わりに近づいている」と書かれています。
その後半部分によって、療法が近く終わることが示唆されています。

③ ジョン・ラントスの「アシュリーの療法開始時の身長と体重、
療法終了後の予測身長と体重などのデータが全く存在しない」との
批判にも通じて行きますが、

これまで前例のない療法の症例報告論文であることを考えると、
「これだけの期間行う予定で、いつから開始、いつ終了予定」というのが
当たり前の報告のあり方のはず。

「手術からの回復を待って開始して、現在1年とちょっと」という報告の曖昧さを
上記②の疑問と合わせて考えると、やはり著者は正確な投与期間を明らかにしたくなかったのでは?

④ この2006年の論文には、
あからさまなウソこそついていないけれど、読者が事実を読み誤るように
いわば「言葉と論理のサブリミナル」とでも呼びたいような仕掛けが
あちこちに仕組まれています。

それについては「論文のマヤカシと不思議」の書庫のエントリーを参照してください。

それらを概観した上で考えると、この「1年とちょっとで……」表現も
「1年とちょっとでもうすぐ終わり」と読者に読み誤らせようとの意図の
そうしたサブリミナルの1つでは、と私には思えます。