「臓器増やすため、ドナーの葬式代はNHSで出してあげよう」と英国の生命倫理カウンシル

英国のNuffield Council on Bioethicsが
約1年半の調査と検討を経て、
この度とりまとめた報告書が
政府に対して提言しているのは、

臓器ドナーとして登録した人が死んで、実際に臓器が使えた場合には、
葬式代をNHSで出してあげる制度が国民に受け入れられるかどうか、
また、それによってドナー登録が増えるかどうかの検討を。

生殖子を生殖補助医療クリニックや研究目的の利用に提供する人への金銭支払いに
現在設けられている250ポンドの上限の引き上げを。
交通費だけでなく所得補償まで可能にするため。

「みなし同意」制度は導入せず、あくまでも本人の意思を重視で。


で、この③の本人意思でのドナー登録を推進するために、
まもなくWalesパイロット・スタディが1つ始まるというのだけど、それが、

New drivers will be given the chance to register as organ donors.

新たに運転免許を取得した人は、
その交付の際に「ドナーとして登録する機会を与えられる」制度だそうです。

なにしろパイロット・スタディなのだから、
この制度によって提供臓器の数がどのように変化するか、注視しておくように、と
Nutffield カウンシルの報告書。

なにやら日本でも、
どこで議論されたのやら、ちっとも記憶にないのだけど、いつの間にか始まっていた
健康保険証ウラのドナーカード利用を思い出します。


記事を読んで印象に残ったのは
カウンシルのディレクター、Hugh Whittall氏の以下の発言。

As science and medicine develop, he added, the need for bodily material will increase.
「科学と医学が進むにつれて、身体資材のニーズは増していきます」

だから、つまり、生命倫理カウンシルの役割・仕事というのは
そのニーズを満たすため、如何に国民の身体資材化を推し進めていくか、その方策を編み出し、
それらをアカデミックな装いで正当化し、さらに国民が自ら進んで身体資材となるよう誘導すること?



それにしても
英国の社会保障費削減が相次いで大規模なデモを巻き起こしていることは、
いくつかの補遺の他にも5月に以下のエントリーでも取り上げたし ↓


ガウタマ・シンラン・ソリドゥスさんも10月1日のエントリーで取り上げておられる通り ↓

イギリスでもデモ
【学院倶楽部】科学と宗教ならびに教養と民族の【共同と連帯】(2011/10/10)


NHSは財政破たんをきたし、もう長いこと英国最大の社会問題になっていて、
NHS存続のためにベッド数もサービスも削減やむなしという話まで出ているというのに
それでも「ドナーの葬式代はNHSが出してあげよう」という提言が平然と出てくるのって、

医療が持たない、地方自治体の財政が持たない、と危機がしきりに言われている日本で
一人4万5000円のHPVワクチン助成には誰も異を唱えないのと、同じ――?

それにしても、この葬式代、記事をよく読むと、
出してもらえるのはドナー登録しておくだけじゃダメで、
ドナー登録した人の臓器または組織が移植や研究に利用された場合のみ。

せっかくドナー登録しておいても、
臓器が使えない死に方をしたのでは出してもらえないらしい。

葬式代が愛他的な善意に報いようという趣旨なのだったら、
ドナー登録しただけで出してくれないと筋が通らないと思うのだけど、

その辺り、
臓器を増やす狙いで登録者数を増やすための
単なる“釣り”に過ぎないから大まかなのか、

それとも、
せっかく登録した人は死に方にもちゃんと気を配って
臓器が無駄になるような死に方はなるべく避けろ、と――?