介護者支援シリーズ 4: 米国 家族介護者月間

以下は2008年10月号の「介護保険情報」誌に
「米国 家族介護者月刊」と題して書いた文章です。

家族介護者月間 米国

 厚労省は先ごろ11月11日を介護の日とすることを決定した。また、NPO法人全国在宅医療推進協会(神津仁理事長)が介護者とかかりつけ医の双方を表彰する「ファミリーケア大賞」を創設するなど、このところ介護や介護者への理解を深める啓発に向けた動きが続いている。

 14年前から毎年6月に実施されている英国の「介護者週間」については2007年6月号の当欄で紹介したので、「介護の日」制定を機に米国ではどうか調 べてみた。英国ほど大きな規模ではないが、National Family Caregivers Association(NFCA:全国家族介護者協会)が毎年奇しくも同じ11月に「家族介護者月間」を開催している。

教育講演やメディアへの働きかけ

 今年の主な活動としては、11月6日と13日にそれぞれ1時間の家族介護者向け教育講演SpeakUp!(声を上げよう!)を行う。希望者が事前に登録 することによって電話またはウェブで聴くことができるテレ講演である。いずれも、介護を受けている家族や介護者である自分自身のアドボケイト(権利や利益 を守るために声を上げる人)として、医療従事者とより良いコミュニケーションを図るコツを学ぶプログラム。

 またNFCAでは、家族介護者月間のポスター、パンフレット、Tシャツ、バッジなどの啓発グッズを作成し、全国の介護者がそれらを利用して、それぞれの 地域で啓発活動を展開するよう呼びかけている。同時に、記事を投稿したり、取材できそうな企画を提案するなど地域のメディアに働きかけようと、その具体的 な手順をHPで指示している。このページには、介護者月間についてのプレス・リリースのテンプレートや、NFCA会長Suzanne Mintz氏が書いたサンプル記事が通常記事用と詳しい解説記事用と2本用意されている。自分で記事を書いて投稿するのが苦手な人は、それらサンプルを ローカル・メディアに持ち込んで依頼・交渉し、掲載してもらうという作戦だ。

「家族介護者」として連帯を

 夫の介護体験からNFCAを創設したMintz氏だけあって、そのサンプル記事は、なかなか鋭く読み応えがある。特に興味深いのは、専門家によって常用 されてきた「インフォーマルな介護者」という呼び方は時代遅れで気に入らないと書いていることだ。理由は「フォーマルな介護者」である専門職との間にヒエ ラルキーを匂わせるものだから。Mintzさんは「家族介護者」という共通の言葉に統一して、その言葉の元にみんなで連帯し、介護負担を軽減する支援、医 療のあり方やメディケアの仕組みの変革を訴えていこうと呼びかける。

 また「家族介護者は外に向かって助けを求めにくいものだから、身近な人が押し付けがましくない、ちょっとした心遣いで手助けをすることが必要」だと、日 本でも専門家の間で「インフォーマルなサービス」と呼び習わされている支援について、具体的な提言を行っている。例えば週に一度食事を差し入れる、庭の芝 を刈ってあげる、ちょっとの間介護から解放してあげる、移動時の運転手を買って出るなど。いずれも介護者がアテにできるように、いつ何をしてあげるかを事 前にはっきり告げておくことが肝要。A little bit of help can go a long way. (ちょっとした手助けが大いに役に立ってくれるものなのです。)

「介護の受け手」という視点も

 日本の「介護の日」は、もともと介護専門職不足を解消する必要から生まれてきたもののようにも思えるが、検討会では樋口恵子委員から、介護従事者だけで なく家族介護者への感謝も示す日にすると同時に、「介護の受け手になる心構えも考える日としたい」との発言があったとのこと。これは英国の「介護者週間」 でも米国の「家族介護者月間」でも盲点となっている、すばらしい視点ではないだろうか。ヒエラルキーがあるのは専門職と家族介護者の間のみではない。「介 護の日」で介護する側への感謝ばかりが一方的に強調されると、介護する人・される人の間にもともと生じがちな上下関係(時には支配―被支配の関係)がそこ に塗り重ねられてしまいかねない。「介護の受け手」という視点を「介護の日」に含めることは、とても大切なことだ。

 Mintzさんが書いている言葉を、私たちの「介護の日」にも忘れてはならない警句として、挙げておきたい。

「介護はみんなの問題です。なぜなら世界には4種類の人間しかいないのだから。介護を体験したことのある人、現在介護をしている人、やがて介護者となる人、そして、いつか介護者を必要とする人。このいずれからも逃れられる人はいません」