NHKの山中教授インタビューを機に、英国のキメラ胚解禁について再掲

今夜のNHKスペシャルで、iPS細胞について
立花隆氏と国谷キャスターが京大の山中教授をインタビューしていた中で、
キメラ細胞を作ることの是非という話が出てきていたのですが、

英国では既にキメラ細胞どころかキメラ胚の研究作成を認める法改正が行われている事実は
その中で触れられていなかったので、

08年4月4日のエントリー「法案成立より先にハイブリッド胚を作成」を以下に再掲。

翌5月にはヒト受精・胚法改正法案が議会を通過、
ハイブリッド胚の研究作成を認める法的整備も行われました。

その時のエントリーはこちら


法案成立よりも先にハイブリッド胚を作製(2008/4/4)


英国Newcastle 大学のチームが
牛の細胞に人間のDNAを入れたハイブリッド胚の作成に成功したと、
4月1日に発表したとのこと。

当ブログでもこれまで「ネオ優生思想」の書庫で
着床前診断による障害・病気の排除の関連で取り上げていますが、

英国上院では目下ヒト受精・胚法の改正審議が行われており、
ハイブリッド胚の研究目的での作成を認める条項については
両党とも自由投票ということになった模様。

まだ法案の審議はそういう段階で投票は来月らしいのに
早々とハイブリッド胚が作られても特段、違法ということにはならない。
なぜなら、ヒト受精・胚機構(HFEA)がこのチームにライセンスを与えたから。
来月に法案が議会を通ったら、いよいよそのライセンスの法的位置づけが公式になる
……ということなのだそうで。

ハイブリッド胚を作成するメリットは、
人間の卵子を使わずにES細胞を作ることができて
女性から卵子を採取したりヒト胚を破壊する倫理問題も
なかなか数が望めない卵子不足も解消する、
パーキンソン病アルツハイマー病の解明や治療法に役立てること出来る、
個々人に合ったオーダーメイドの治療に結びつく……などなど。

We have created human-animal embryos already, say British team
The Times, April 2, 2008

ちょっと気になるのは、ここへ来て
「ハイブリッド胚」とか「キメラ胚」とかではなく、
admixed embryos (混成胚、でしょうか?)という
新しい呼び方が目に付くようになってきたこと。

こういう言い替えが起こるということは、
まぁ、法案が通過する見通しが立ったんだろうな……と勘ぐってしまった。

それにしても、
いくらオーソリティのある機構が作ってもいいとライセンスを与えたからといって、
(ちなみにHFEAはKing’s Collegeのチームにもライセンスを与えています。)
ハイブリッド胚の研究利用を認める法律が成立していないのに
研究者が既成事実をちゃっかり作ってしまって、
法律が後追いしたら「そのライセンスの法的位置づけが公式なものになる」って……
どうも、この辺りの感覚が前からよく分からない……。


【以前の関連エントリー
Verichipスキャンダル&ハイブリッド胚
英国ハイブリッド胚にGOサイン


なお、英国ヒト受精・胚法改正議論の概要は以下の2つのエントリーに。
法案をはじめ当該情報へのリンクは後者のエントリー後半にまとめてあります。


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NHKの番組中、山中教授は、自分の研究室でも
成体マウスの内臓の細胞から作ったiPS細胞によって
全身が最初から大人の細胞だというマウスを誕生させたことがあり、
こんなことをしていいのかと怖くなった、

病気治療発見のため実験は続けるべきだとは思うが、
何が起こっているのかを全て曝け出して議論が必要では、と
言っていたのに対して、

立花隆氏が言っていたのは
国際競争がこれだけ激化している中で倫理問題をどうこう言っていたのでは
日本は未開な後進国になってしまう、だいたい、倫理問題を騒いでいる連中というのは
起こるはずもないSF小説のようなことを勝手に想像して騒いでいて無知なだけだから、
と慎重論を全面否定で切り捨てるニュアンスで、

起こっていることの真実をすべて明らかにして議論が必要とする山中教授と
実際に起こっていることには全く触れず、議論の必要すら切り捨てる立花氏とは、
全く別の方向を向いてしゃべっていた。

しかし、国際競争に生き残るために前に進むことが必要だという話と、
議論したり懸念すべき倫理問題が存在するか否かという話とは、全く別の話だ。

それに立花氏が「起こるはずもないSF小説の中のキメラ生物が実際に誕生するみたいに
過剰な想像力で一部の人間が騒いでいるだけ」と言っていたことの信ぴょう性だって、

人間のクローンを作ろうとか作ったと言っているラエリアン・ムーブメント
英国のハイブリッド胚が何らかの事故でそのまま育成されてしまったら……という可能性や

ほとんどの技術を無規制で野放しにし、そこに穢いヤリクチの抜け駆けで、
いち早く利権構造を生じさせることで国際競争を創り出し勝ち続ける一方で、
そうした“科学とテクノで簡単解決”文化が強欲グローバル資本主義と結びつき
社会の価値観を変容させ、社会システムや人心の荒廃を招いている思われる
米国の諸相を念頭に、じっくり検討してみる価値があるのでは?