ぱんぷきん・すうぷ

お隣りから美味しそうなカボチャをいただいたので、スープを作ることにした。

子どもの頃には台所で一緒に切ったり混ぜたりコネたり、「お手伝い」が大好きだったのに、
最近は誘ってもちっともノッてくれなくなった娘が、珍しく手伝ってやってもいいという。

鍋で煮たカボチャをミキサーに入れて、
娘にスイッチを押してもらうことにする。

これは幼児期からお気に入りの「お手伝い」の一つなので
何度もやって分かってはいるはずなのだけど、
娘は、突然大きな音がすると、全身が激しく緊張することがあるので、
一応、「ぐぎゅーん、というからね」と予告しつつ、
娘の手をとり、指をスイッチの上に導く。

が、
指先には一向に力が入る気配がない……。

で、つい、言ってしまった。
「怖いことないよ。もう何度もやったじゃない」

すると、娘は目を一瞬ギラッとさせ、
ひとつ大仰なため息をついてみせてから、指先に力を込めた。

ふん。怖いわけ、ないじゃない。

間違いなく、その瞬間、
言葉を持たないウチの娘は、全身から発するオーラで、そう言った。

そして、ミキサーの音に本当は一瞬ひるんだくせに、
「なにさ、こんなの」的ながんばりで、手を引っ込めなかった。

ほぉ。なかなか、やるじゃん。

……そういえば、最近、こいつは、どうかした拍子に
こういう、わざとらしいタメ息をついてみせるようになったなぁ……。

例えば、「寒くない?」「ここ痛くない?」みたいなことを
母親がつい小うるさく訊いてしまうような時とかに――。

で、軽い気持ちで言ってみた。

「ミュウ、あんた、お母さんに
私をもう子ども扱いしないで、と言いたいの?」

娘は「扱いしな」のところで顔を上げ、迫力のある目力して、
「ハ!」と、ものすごく、きっぱりと言った。

……あは。

そっかぁ。
分かったよ、ミュウ。
お母さん、なるべく気をつけるよ。

柄の長いサラダ用の木製スプーンで
娘と一緒にミキサーからカボチャを鍋にかき出しながら、
母としては胸の内で、ちょっとした感慨にふける。

そっかぁ。あんた、大きくなったんだねぇ……。
おっと、いけない。こんな言い方をしたのでは、また叱られる。
あんた、オトナになったんだねぇ……。

なるほど、あのタメ息は、
「うっせーばばあ」なのかぁ……。そっかぁ……。

……と、
娘の背後から聞こえていたテレビの番組が変わり、
明石家さんまの声が聞こえてくる。

――お?

娘が耳と目をそばだてる。

「お? あの声は……」と、その目が言っている。
次いで「あれは、さんま!」。喜んでしまった。

次の瞬間、無責任にもスプーンを放り、
「あたし、テレビ見にいく。ねー、おかーさん、テレビ、テレビ」

「……で、カボチャのスープはどーすんの?」
「さんまっ、さんまっ、テレビっ、テレビっ」
「じゃぁ、スープはお母さんが一人で作るんですか」
「ハ」

なんじゃ、それは。

車椅子をテレビの前までお運び申し上げ、
ひゃあひゃあ喜ぶ声を背に、母は台所に戻り、鍋のカボチャをかきまぜる。

カボチャのオレンジ色と牛乳の白が混じり合うマーブル模様を眺めていると、
下を向いたまま、顔が、ひとりでに、にまにましてくる。

ったく。な~にが、「うっせーばばあ」なんだか……。