Diekema&Fostの成長抑制論文を読んでみた

Diekema&Fostの成長抑制論文のフルテキストを読んでみました。

まだ、しっかり読み込んだわけではありませんが、
あっちもこっちも指摘したいことだらけ。

取り急ぎ、「あんまりだろ、それは」と仰天した5点について。


1.2007年の論争以来、重症児の家族や小児科医らから
一般化して欲しいから議論してガイドラインを出せとの要望が相次いでおり、
それを受けて成長抑制の実施について検討するもの、と論文が位置づけられている。


2.2007年の論争で批判を受けたのは子宮摘出と乳房芽の切除であり、
成長抑制療法についてはそれほどの批判はなかったし、
成長抑制に子宮摘出と乳房芽切除を伴う必要はないから、
この論文では成長抑制だけを取り上げる、と。

冗談じゃない。
批判を受けたのは、
それら3つの医療介入をセットで承認した倫理委員会の“判断”であり、
その倫理委の判断の倫理性が問われたのだから、

彼らが本来すべきなのは
「それぞれの介入の倫理性を承認した病院の判断の倫理性」についての釈明であり
そこをすっ飛ばして1つ1つの介入について論じることは本末転倒。

(もちろん、その本末転倒を敢えて強引に続けることで世論をたぶらかして
Ashley事件の幕引きを狙っている……というのが真相だろうと私は思いますが)

それに2006年の論文で
子宮摘出はホルモン療法の副作用防止の必要悪として扱われている以上、
成長抑制には子宮摘出を伴う可能性があるといわなければならない。

私に言わせれば、
2006年の論文からして、主目的が成長抑制であるかのように書き、
その後の2度のシンポでも成長抑制にフォーカスしてきたのは
正面から倫理性を問われた時に、詭弁を弄してなんとか誤魔化せるのが成長抑制だけだということを
彼らが最初から知っていたからに他ならない。


3.成長抑制を、かつて行われた女児への身長抑制や現在も行われている男児への成長促進といった
ホルモン療法の、いわば「革新的な」応用であり、薬でいえば「適用外処方」であると位置づけて、
むしろ治験としてデータを積み重ねるべきだ、と主張している

これはAshleyの父親がブログに書いている計画とぴったりと重なります。


4.WPASと病院との合意を、まったく否定している。

これは最も重大な部分。

In the Ashley case, a disability rights group persuaded the Seattle Children’s Hospital to agree that they would never begin such treatment without review by a court.

と書いているので、病院が合意した事実は認めているわけです。
WPASの捉え方はともかくとして。

ところが、この合意を彼らは such an extraordinary restriction だと主張し、否定するのです。

著者らの論理は、だいたい以下のような流れ。

ホルモンによる成長抑制には医学的なリスクが少なく、侵襲度が低い。
裁判所の判断が求められるのは、もっと危険度や侵襲度が高い医療介入の場合のみであり、
某障害者の権利団体が病院にさせた合意には法的根拠が乏しい。

そもそも成長抑制療法はAshleyケースにおいて
シアトル子ども病院の倫理委によって“全員一致で”支持されたものである。

もしも今後に向けて治験として広く試みてデータを集積するのであれば、
施設内倫理審査会の適応とはなるが

これほど危険度も侵襲度も低い成長抑制療法は
本来なら倫理委にかける必要すらないほど benign (穏当?)なものである。

ひとえにAshleyケースがあんな大きな騒ぎになったから、というだけの理由で
まぁ、病院内倫理委員会の検討くらいして念を入れれば十分だろう。

これは、もう、
2007年のシアトル子ども病院の生命倫理カンファのパネルでのFostの発言と、口調まで、まったく一緒。

しかし、他大学の所属である3著者はともかく、
シアトル子ども病院の職員であるDiekema医師が
病院が記者会見まで行い、医療部長名でリリースまで出して公式に約束したことを
どうしてこんなに簡単に否定できるのか、理解に苦しみます。

論文のこの箇所について
シアトル子ども病院とWPASから、それぞれの見解を聞きたいところです。
(特に成長抑制WGのメンバーに入っているWPASの弁護士Carson氏の見解を)

この辺りの背景については、当ブログで詳細を追いかけているので
また別にエントリーを立てたいと思います。

もう1つ、この部分に関して指摘しておきたいこととして、
2004年の特別倫理委員会が全員一致で合意したのは
「少なくとも反対はしません」という点であり、
全会一致で倫理的な妥当性を認めたわけではありません。

この点についての詳細は「倫理委を巡る不思議」の書庫に。

5.成長抑制するならカロリー制限で体重管理も同時に、と

成長抑制療法を行う場合には、
スリムな体を維持させるためにカロリー制限を行い、体重管理を併用するよう提案されています。

2007年1月5日にScientific Americanのメール討論に
部外者を装って登場した 子ども病院のWilfond医師は

体重管理そのものは食べさせるものを制限することによって家庭で簡単に可能なのに、
Ashleyケースでは、それを医療技術によって行おうとするところが特徴的だ、
と指摘していましたが、

この論文では、そこから一歩進んで、
両方を同時にやって「介護しやすいように痩せさせておこう」というわけです。

それならば、医療介入の侵襲度の点で考えると、
まずは侵襲度の低い「カロリー制限」の方を先に提案するべきではないでしょうか。

それなのに
効果のほども確かではなく副作用のあるホルモンの大量投与をまずやりましょう、
その際には、ついでにカロリー制限もやった方が成長抑制の効果が大きくなります、というのは
これもまた本末転倒というものでしょう。