自殺幇助希望のMS女性が求めた法の明確化、裁判所が却下(英)

去年、以下の2つのエントリーで取り上げてきた件の続報。



簡単に言えば、この多発性硬化症の女性 Debbie Purdyさんは、
いずれ夫に付き添ってもらってスイスのDignitasクリニックで幇助自殺をしたいので、
夫が帰国後に罪に問われないとの言質を裁判所から取りたいわけです。

去年の10月に高等裁判所
「法律を変更するのは裁判所の仕事ではなく議会の仕事だから、
そんな約束は出来ない」と突っぱねたものだから
上訴していたのですが、

今回、上訴裁も同じ答えを出した、というニュース。

そりゃ、そうでしょう。
自殺幇助を違法とする法律がある国で、
「でもウチの夫だけは罪に問わないと約束して」と頼まれて
「ウン」と答える裁判所があったら、
それはもう裁判所が機能を放棄している。

しかし、記事を読む限り、
裁判所の怪しげなホンネも透けて見えていて
「仮に幇助自殺事件で有罪とされたとしても、
懲罰は妥当ではないと裁判所が判断する可能性はある」と付け足している。

なんとなく
「立場上、そんな約束を公には出来ないし、大きな声では言えないけど、
たぶん、きっと実質的にはダイジョーブだよ……」と、ささやくが如し。

でもPurdyさんは
「私がほしい明確な答えは出せないと裁判所は明言したわけよね。
夫が罪に問われないという100%の確約がとれたら
スイスに行くのをもっと先にしようと思っていたけど、
そういう確約が取れないんだったら、もっと早く行くわ」
と、自分1人でスイスまで行けるうちに自殺を考えることを仄めかしています。

「私がいなくなった後に夫に1人で英国の司法制度と闘わせるなんて
 そんなの耐えられない」

「そんなの悪夢です。そのくらいなら自分が早く死ぬ方がまだマシよ」

Woman loses assisted suicide case
The BBC, February 19, 2009


Purdyさんの言葉を読んでいたら、
なんだか、この人、モンスターペアレントみたいだ……と。

その連想を経たからか、Purdyさんの言葉に、
障害のある子どもを残して先に死ねないと思い詰める親の思いが重なってしまった。

私がいなくなった後に、
こんなに非力な子に1人で世の中の荒波を渡らせていくなんて
そんなの考えただけでも耐えられない……。

だから
自分が死んだ後も、
この子が安全に幸せに生きていけると保証してほしい……と、

世の中から、そういう言質を取りたいと身もだえしてしまう。
そんなの取れるわけないのに……。

だから、もしかしたら、これは
Ashley事件以来ずっと、そういうことを考え続けて悶々としている
障害のある子の親の腹いせなのかもしれないけれど、

Purdyさん、
自殺幇助が違法だという現実を前に
それでも夫に頼みたいなら、
罪を引っかぶる覚悟で私の自殺を手伝ってちょうだい、と
あなたは夫に頼むしかないんじゃないですか、

その上で、
罪に問われる問われないは別問題としてイヤだ、とするか
罪に問われるのを覚悟で手伝うよ、というか
罪に問われるなら手伝うのはイヤだ、というかは

あなたではなく夫の判断なのではないですか?

……と思った。

やっぱり
人間には絶対にやってはならないことというのがあって、
それを個人的な状況や愛情からどうしてもやらなくてはいられないという人がいるのであれば、
それこそ自分の命をかけるくらいの覚悟でやる以外にない……

……というふうであるべきなんじゃないだろうかとも思うし。


【追記】

以下のTimesの記事によると、
上訴裁判事の発言は上記の記事よりも明確に
自殺を助けた人が起訴された場合に裁判所は寛大を期するという方向性を
打ち出したものだったようです。

ただしBrown首相は前から主張しているように
自殺幇助の合法化には反対の姿勢で
法務大臣も法律を改正するつもりはない、と。