NE州で「こうのとりのゆりかご」ジレンマ

米国Nebraska州で
子育てが困難な親に子どもを州に託すことを認める法律によって
子どもを“棄てる”人が相次ぎ、問題になっています。

問題のSafe Haven Law(安全な隠れ家法?)とは、
日本で言えば「こうのとりのゆりかご」と同じ制度と思われますが
米国では実際のポストを設置するのではなく、
所定の病院で受け入れることを法律で明示してあるようです。

親が子どもを連れて指定病院へ行き、
文書にサインして子どもを州の福祉局に託すという仕組み。
この法律の下では理由を求められることはなく、
罪に問われることもありません。

Safe Haven Lawそのものは全50州にあるのですが、
もともと乳児殺しの予防という意味合いの法律なので
他の州では1歳未満としているのに対し
Nebraska州だけは年齢制限を設けずに7月に同法を施行。
(福祉局の担当権限により事実上は17歳まで)

すると、9月1日以降、15人もの子どもが連れてこられた。
特に9月24日(水)には午後5時からの4時間に
3人の父親が子どもを連れてきて、
そのうちの1人は1歳から17歳までの9人の子どもを置いていった、と。

また、年齢から同法の適応とはならず情報提供で帰されたようですが、
親も後見人もいない18歳の男性がこの法律の元での保護を求めて
自らやってきたというケースも。

大まかな事件の概要は以下のUSA Todayの記事に。



地元紙the Omaha World-Herald紙のサイトでSafe Haven Lawで検索してみたところ
9月23日から30日までの間にこの問題で14本の記事がありました。

とても全てを読むことは出来ないので
それらの内容をまとめてあるChicago Tribuneのブログ記事も参考に
いくつか気になる詳細を拾っておくと、

・ 子どもに精神障害や問題行動が見られるケースがかなりある。

・ 親が子どもを“棄て”にきた理由も、貧困よりも子どもの問題行動に悩んでの場合が多いと説明されている。

・ ある母親は「私にはこの子をコントロールできません。やろうとしたら、この子を酷い眼にあわせてしまいます」。

・ 問題行動のある子どもの親は、これまでに相談機関や病院に助けを求めた経験はあるものの、
有効な支援に結びついていなかった。

・ 何らかの事情で親ではなく叔父叔母が養育しているケースも複数ある。
(父親に虐待と薬物中毒があり叔母が養育しているが
本人も粗暴で精神科を受診させたが薬を飲もうとしない、
警察に相談したが犯罪を犯すまでは手が出せないと言われた、など)

・ この法律の下で保護された子どもたちの処遇については
施設に入れるか里親を見つけるか裁判所が判断することに。

・ 一度に9人が棄てられたケースでは
母親は2007年2月に急性脳出血で死亡、後に10人の子どもが残された。
34歳の父親には失業、立ち退き命令、公共料金未払いの前歴があり、
また心理士から常識を欠いていると判断されている。
18際の娘をのぞく9人を連れてきた父親は
これ以上育てられないと警察に話した、と。
子どもたちについては州議会が特別な予算を組んだが
親族から協力の申し出も出ている。



The Omaha World-Heraldの14本の記事のタイトルからは
こうした”濫用”の多発を受けて州議会が同法の見直しを検討しているようですが、

むしろ親や養育者または本人の困窮がここに炙り出されているのだから、
法律を改正して機会をシャットダウンするだけでは解決したことにはならないのでは?

親や養育者がそれぞれにそれなりの相談機関や病院に相談しているのに、
それが「役に立たなかった」り、実際の支援に結びついていなかったことが
私にはとても気にかかります。

いくら相談窓口があっても、
そこから繋げることのできる実際の支援が用意されていなければ
その窓口は行政が仕事をしているというアリバイに過ぎないのに……といつも思う。


Children left at Nebraska hospitals: more details
Triage (Chicago Tribune health care blog) by Judith Graham, September 28, 2008

who left 9 kids had series of woes
The Omaha World-Herald, September 26, 2008

Profiles of the families that have used the safe haven law
The Omaha World-Herald, September 28, 2008
(Safe Haven Lawの適用を受けた家族のプロフィールがまとめられています)