親による治療拒否(2つめのRoss講演)

去年のシアトル子ども病院生命倫理カンファで
2回講演を行っているのはNorman Fost と Lainie Freidman Ross。

第1日目7月13日午後の分科会での講演では
子どもへの臓器提供者としての親と、
その場合のリスクの考え方について
数多くの問題を提起していました。

14日のタイトルは「小児科における治療拒否(Refusals in Pediatrics)」。

ものすごい勢いでまくしたてるので
私には聞き取りが非常に厳しいのですが、

親が子どもの治療を拒否した事例を次々に挙げて
解説するというよりも会場に問題を投げかけていく、
その中で
親も子どものためを思っていることをまず理解すること、
親への充分で正確な情報提供と教育、
コミュニケーション改善と説得の努力が必要、
州の介入を求めるのは慎重に、
といった点などが強調されていました。

特に興味深かった点を3つばかり以下に。

① 74年に連邦政府が宗教上の理由での治療拒否を虐待の対象からはずし、
83年にはこの宗教例外法を持たない州は5つのみとなった。
現在の状況も83年と同じ。

② Rossが示した統計によると、
親による治療拒否が裁判所に持ち込まれたケースが
1912年から1998年の間に50件あり、
その中の44件(88%)のケースで医師側の主張が認められている、と。
(この統計の数字についてはプレゼン資料で確認しました。)

ここでRossは面白い論の展開を見せます。
「このように、どうせ9割近くで勝つのであれば、
わざわざ裁判所に持ち込まず現場で親を説得する努力をしよう」
と主張したのです。

③ 後でDiekema医師も取り上げる(当ブログでも既に紹介した)Muller事件についても、
Rossは医師側の対応を批判していました。

発熱で救急にきた赤ん坊への腰椎穿刺を巡って
医師と親が対立した事件。

一応スタンダードな医療としては腰椎穿刺をすることになっているが、
実際に全ての子どもに行われているわけではないことは周知の事実。
親が言うように数日前から家族が同じような症状の風邪を引いていたのであれば
常識的に考えれば家族と同じ風邪だろうとみていいし、
何よりも腰椎穿刺を行って入院させるよりも、
外来患者として治療すれば子どもが家に帰れるという利点が大きい。

医師は州の介入を求めるに当たっては、
本当に親の治療拒否が虐待やネグレクトに当たるのかどうか
慎重に考えなければならない、と
Rossは警告しており、
この点では後で同じテーマを取り上げるDiekema医師と全く同じスタンスです。

しかし、

親の治療拒否に当たって
医師は「虐待だネグレクト」だと州や裁判所の介入を求めるに当たっては慎重であれ、
と2人が説く慎重さを

親が過激な医療を求めた逆の場合(つまりAshleyケース)に当てはめてみると、
「医師は親が求める過激な医療については、
虐待に当たる可能性がないかどうか慎重であれ」
という警告になるはずでは……?

Rossは“Ashley療法”論争では
メディアに登場して擁護した人の1人でした。
さほど熱心な擁護ではありませんが。