納豆チーズ・トースト

ちょっと前、某SNSの納豆コミュニティにハマっていたことがある

私自身はたいして好きなわけでもなく
ミュウが納豆大好き人間だから覗いてみただけなのだけれども

みんなが納豆に注ぐ情熱が実にまぶしくて、
つい、やってみたくなるのだな、これが。

どうせやるなら……と思わせるだけ、
ここに集う納豆好きはマニアックでもある。

とはいえ、初回はなかなか勇気もいることとて、
ウソだろ、それ……と思わずひるんでしまう食べ方の中から
まぁ、やってみてもいいか……と思える許容範囲を夫婦で相談しつつ絞っていくと
とりあえず「納豆チーズ・トースト」が楽しそうだった。

そこで、納豆もチーズも共に大好きなミュウと一緒に食べてみることに。

時は休日のお昼。

朝から「今日のお昼は納豆チーズ・トーストだよ!」と父も母も騒ぐのだが、
ミュウにはイマイチぴんときていない模様。

まぁ、騒いでいる親の方も確たるイメージには乏しいわけだし。

車椅子で食卓の定位置についたミュウの前に材料をすべて運び、
トースターのワゴンもテーブルの傍にセット。

皿の上に食パンを取り出し、スライスチーズを載せる母の手つきを
大して興味もなさそうに見ていたミュウの目は、

母がパックの中でタレと合わせてかき混ぜた納豆を
おもむろにその上にスプーンで広げ始めるや、

「おや?」と俄かに焦点を結び、
次いで見開かれて「え?」と言った。目が。

え? え? えぇぇー? 

見る見る釘付けになった目は、
それから「なんてこと、するんだ?」と困惑し、
もの問いたげに母の顔を見た。

うっふっふ。まぁ、待ってなさいって。

チーズと納豆をのっけた食パンは母から父の手に渡り、
父の手でオーブントースターに……。

思ったほど臭くないね。
どれくらい焼けばいいかな?
もうちょっとカリカリにならんかな。

はしゃぎ気味に焼け具合を確かめる親たちを
ちょっと距離を置いて冷静に眺めるミュウ。

「はいよ、納豆チーズ・トースト、できたよっ」

皿に移して目の前に差し出すと
ミュウは車椅子で、ろくろっ首になった。

「えー? なんでー? ミュウの好きな納豆なのに」

いいよ、じゃぁ、お父さんとお母さんで食べるから。

親が二つ折りにした、そいつに齧りつくのを
ミュウは薄気味悪そうに、ナナメ目線で……。

父にはイマイチだったが、
母はそれなりにクリーミーで旨いと思った。

母がどんどん食べるうち
ミュウの目つきが、ちょっとずつ変わる。

「――食べる?」

バツ悪そうに小さな声で「ハ」
「やっぱり、あたしもちょっと食べてみたい……」てか。

小さくちぎったのを口に入れてやると、
遠くを見るような目つきで慎重に味わい、
「あら、割と……」という顔。

「もっと食べる?」
「ハ」

でも、結局5口だった。
彼女はその後、納豆抜きのチーズ・トーストを所望した。

「納豆はやっぱり普通にゴハンで食べたい人ォ?」

おそらく同意見だったらしい父が聞くと、
ミュウは、くそまじめな顔で答えた。

「ハ!!」